小説「醒なる美舞」目次へのルートのおしらせ
小説「醒なる美舞」の目次は、2009年1月1日の所に引っ越しました。ココログケータイ小説恋愛から入ると入り易いです。よろしくお願い申しあげます。
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現在公開中の小説
・・・ 恋愛・ライトノベル・サイドストーリー
・・・ 「Ayaのひととき」序 より
☆ コードネームはAya。孤高の銃の使い手。Ayaと唯一接触をする青年情報屋K。ある七夕の晴れた日に、二人は久し振りに際遇した。ゆるりとした時間が流れたのも束の間であった。白雨の中、Ayaが走り出し…。愛は何処にあるの?サイドストーリーです。
美少女アルバムシリーズ第1弾。
* 携帯で見易い様に小説「Ayaのひととき」を改稿しました。
・・・ 恋愛・ライトノベル・短編
・・・ 「SIXTEEN☆結婚物語」序 より
☆ 諸注意
18禁小説ですので、未成年者はご覧にならないで下さい。
20歳未満です→ご覧にならないで下さい。
20歳以上です→「SIXTEEN☆結婚物語【2】1美歩那と智樹」へお進み下さい。
『SIXTEEN☆結婚物語』は、女子高生モデル美歩那とカメラマンで年上夫の智樹との甘い新婚物語。[Comme d'habitude]なんて写真集も作ったの。所がジェラシーの波が!?どうしてメールの返事が来ないの?入籍だけなんて、耐えられないよ。短編です。
美少女アルバムシリーズ第2弾。
・・・ 恋愛・長編予定
・・・ 「醒なる美舞」序 より
☆ 神秘の力を持つ傭兵二人。彼らには秘密の痣がある。左手の五芒星は漆黒のマリア。右手の逆五芒星が白銀のウルフ。その両親から生まれた美舞は両の手に神なる力を携える。美舞を巻き込む過酷な運命とは!?何に覚醒する…?恋愛!SF!学園!格闘!長編です。
さくさく読めます。
美少女アルバムシリーズ第3弾。
どうかよろしくお願いいたします。m(__)m
***
しいなゆうひ
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「醒なる美舞」後記
‐『醒なる美舞』とSF・克己心‐
『醒なる美舞』は、学園ものの様に見えて、SF小説です。
“science fiction”と言うよりも、“science fantasy”として書きました。そこには、私の求める、ロマンがあります。何処か不思議な世界にありながらも、夢を残していると思えるからです。
美舞の設定は、両親のエピソードからして、SFです。特に、「力」に関しては、現実的ではありません。単にそれだけではなく、強くなりたいと言う願望、変身願望を満たしてくれると思います。
さて、美舞は何に変わりたかったか。それは、強さと毅さと兼ね備えたつよい人間となり、自身の生まれを知る事と恋愛から、克己する事だと思って書き始めました。肉体的な格闘の描写が多々みられますが、精神的にも表現したかったのです。余り上手くは表れていませんが、稚拙な筆者に免じてご了承下さい。
未だ未完成とはいえ完結の形を取れた事は喜ばしい事です。今迄は全10章迄しか公開していませんでした。今回、エピローグ的な要素も含めて全23章迄日々の生活の中で書いてやり遂げられた事が嬉しいのです。今後、描き直し、加筆修正も考えております。もしかしたら、続編も書こうかとも思っております。
此処までお読み下さり誠にありがとうございました。本当に拙い作品ですが、どうぞ、マリアとウルフ、美舞と玲の二つのちいさな愛を見守ってあげて下さい。そして、こんな世界もあるのだと言う事を物語として心の片隅に灯してあげて下さい。
まずは、御礼まで。
***
しいなゆうひ
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―数年後―
二人の間に子供が宿る。
さて、その子の運命は?
五芒星や逆五芒星の痣は?
Fin
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三浦家の玄関から出て来た美舞と司狼と真理亜に日菜子は頬が照った。そして優しく美舞に声を掛けた。
「美舞、今一番輝いている・・・。ウエディングドレスではなくて、美舞が、美しく舞っている・・・。本当におめでとう、土方美舞。」
日菜子はそっと自分の涙を拭った。
父が花嫁の手を引き、母がその後を歩み、新郎に美舞の手を渡した。粛然と歩んで行った。
三浦家と土方家の四人の心境は様々で複雑であり、列席した皆が察するに鳥滸がましい感じさえした。
玲と美舞は皆の前で誓いの言葉を述べた。
「私達は永遠に愛し合う事を誓います。」
「糟糠の妻は堂より下さずと肝に銘じます。」
玲が舒した。
「夫婦は二世と肝に銘じます。」
美舞が舒した。
玲が美舞の頬にそっと右手を当てた。玲の右手にはもう力はない。美舞は桜の様にその花瞼を閉じた。次第に当てられた右手から己の紅潮する頬を隠せなかった。玲も又うっすらと呈したのは甕覗き色の涙であった。
二人は優しくキスを交わした。それはマリアとウルフが知り合った時と同じ日の夜。七月八日の午前十二時ジャスト。
すると、星降る夜空から祝福の星が一筋流れた。流星群の最初の一つ星であった。
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コンコン。
ノックの音がして日菜子の声がした。
「お支度はできましたか?」
美舞はその時が来たのだと感慨も積もり、又これからは中々行き来できなくなる親友に一目会いたくてドアを開けた。
「ひなちゃん、この度はお手伝いありがとう・・・。」
「芳川日菜子さん。私達からもお礼を申し上げます。」
真理亜と司狼が深々と首を垂れた。
「いえ、些細な事で恐縮です。この度は誠におめでとうございます。」
日菜子のコーディネイトは最高であった。美舞と玲で基本的には式の支度をしたのであったが、日菜子のサポートで粋なものになった。
さて、式はとうとう始まった。
三浦家でのガーデンパーティー形式である。三浦家の庭に、花嫁であるワンショルダーのウエディングドレス姿の今もの静かな美舞と新郎であるタキシード姿のいつもの様子の玲、そして新婦父であるモーニング姿の畏まった司狼、同じく母である“漆黒のマリア”ならではの黒いイブニングドレス姿の花嫁をも凌駕しそうな真理亜が居た。
この新しい家族の間で結婚式と結婚披露宴が始まろうとしていた。美舞は三浦家から土方家に入る事になるのであった。
三浦家の庭では、ピンクの胸元のリボンが可愛らしいワンピース姿の日菜子らが列席していた。日菜子も含め周囲はあたたかく見守ってくれていた。
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第23章 結婚式の奇跡
―五年後―
今日は三浦美舞と土方玲の結婚式である。
今は、七月七日の晴れた夜。三浦家リビングにて真理亜と司狼がウエディング姿の美舞の元揃っていた。
「父さん、泣くのはもうよしてよ。」
真理亜の様に美しくなった美舞の前で落ち着かない司狼と落ち着き過ぎて怖い真理亜であった。家族だけの団欒は最後のひとときとなった。
「美舞、キスは父さんの前でしてはいかんぞ!あれは心臓に悪い!」
司狼はウエディングドレスのベールを触り懇願した。
「・・・・・・。」
縋る様でみっともないけれどもその気持ちも分かるので真理亜は黙っていた。
「人前結婚式なんだから、仕方ないじゃない。」
美舞と言う娘は、性格が少し司狼に似ている。司狼を慕っているのは間違いがないのであった。寂しいのは父、司狼だけではない。その娘もそうである事は表情から十分伺えたが、それでも宥めるしかないのは、美舞の中の強さと毅さであった。
「美舞は、見た目は母さんの様に美しく、中身は父さんの様な所があって、もう最高の娘だといつもいつも自慢していたのに。」
司狼はポケットチーフで涙腺から鼻に出たものをかんでしまった。
「これからもその侭でいいでしょう?父さんの娘をやめる訳じゃないんだよ。」
美舞も司狼とは負けない所が似ていて可愛いと、又ポケットチーフを使ってしまった。
「はい、司狼。」
新しいポケットチーフを真理亜が渡してくれた。用意していた様であった。
「あの男・・・、婿にすればよかった。」
司狼は呟きでピチッと真理亜にでこピンをされた。
「貴方はお酒も戴きませんからね。発散できないのは分かります。」
真理亜が肩をさすった。
「・・・・・・。真理亜は流石妻なだけあるなあ。死に水はおばあちゃんに取って貰おう。」
司狼が思いっきり馬鹿な事を言い出した。
「あほか。」
美舞にでこピンを一つ。
「馬鹿ね・・・。」
真理亜にでこピンをもう一つされた。
「あいててて・・・。」
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「あ、何か、僕、軽くなったみたいだよ。」
美舞は手足をぶんぶんと振って、皆の前ですっかり憑依が取れた事を証明した。
「又、憑依されていたんだね。」
玲が先日の眼の前で見た事を思い出して言った。
「玲君・・・。さっき言った事は本当だよ。」
玲を見つめた。
「さっきって・・・。さっき・・・!?」
玲ははっとして赤面した。
「そう、さっき。一度しか言わないよ。」
こんな所はマリアに似ていた。
「本当なんだね・・・。」
玲は感慨に浸った。運命だけでは得られない愛がそこにあった。
「じゃあ、五年後に約束を果たしてくれるかい・・・。」
「そうだね、五年後に・・・。」
五年後の結婚を約束して、二人は闘いの勝利と愛のキスをした。
「あ!」
美舞は自分の今迄光鋩があった掌を見た。
「何故か・・・、あの痣は消えたみたいだよ。」
少し寂しい様に呟いた。
マリアとウルフの痣も消えていた。玲には元々痣はないが、力を封じる力があった。しかし、今はそれも感じられない。
四人とも力を失っていた・・・。
闘いは終わった・・・。
この闘いで、美舞はマリアとウルフのかけがえのない両親のあたたかさを知った。そして、美舞と玲の二人に深い絆が出来た・・・。
美舞の素晴らしい笑顔が何よりもそれを語っていた・・・。
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第22章 神の啓示
「吾は神なり。」
ガガガガガガガーン!!!
プラズマが表れ、雷鳴が轟いた。
美舞の様子が急変した。体は硬くなり、蒼白となり、目は三白眼で恐ろしい形相となった。
「僕の肩が重いよ。」
先般と異なり、憑依は半分だけの様であった。美舞は気を失っていなかった。
「う・・・。何か苦しいかも・・・」。
玲とマリアとウルフは再び体躯が全く動かなくなっていた。勿論口も利けない状態であった。只見ているだけに歯痒い思いをしていた。
「美舞・・・。又、辛い目に・・・。」
誰もがそう心配していた。
「吾は神なり。」
美舞の口を借りて、先日の“吾”、神を名乗るモノが現れた。
「三浦美舞、主に告げる事あり、参った。」
一人芝居を見ている様であった。
「で、用は何?」
美舞の中の美舞が訊いた。
「三浦美舞、主はカルキなり。」
神を名乗るモノから大きな言葉が飛び出した。
「ぼ、僕がカルキ?」
美舞は冗句かと思った。
「いつだって唐突だね。」
美舞は血色をもぎ取り、ぎょろっと目の玉を戻して、又美しい元の美舞に戻ったが、体の硬直は取れなかった。
神を名乗るモノが皆の前で語り出した。
「カルキは神の中の神。主こそがカルキなり。」
厳かに美舞の口から神の声が聞こえた。
「神の国へ誘うが如何なものか。」
神はカルキである美舞に問い掛けた。
「いいよ。遠慮する。僕は。地球でやりたい事があるんだ。」
自分と話しを付けていた。
「そうか。主、カルキに従う。」
神を名乗るモノはカルキだと名指す美舞と話して用が済んだとみるや、美舞の中からさっと消えた。
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ド。
ド・ド。
ド・ド・ド。
ド・ド・ド・ド。
ド・ド・ド・ド・ド。
ド・ド・ド・ド・ド・ド。
怒涛の様な振動波が果てしない火の輪を破り湖一杯を走破した。
四人の金縛りが解けた。見ると木のモノはムンクが耳を押さえて叫んだ様な洞を胴体の真ん中に開けて枯れていた。
四人がそれぞれに見ていた金の斧の幻覚は消えた。金のモノは白金耳の様に小さく丸まって焼けていた。
それを見た火のモノは面白がって狂った様に木のモノを燃やし金のモノを熱した。
それを見ていた水のモノも可笑しな磁石の様に火のモノに取り憑いて火のモノも消してしまった。同時に木のモノも金のモノも消えてしまった。そして水のモノ自身火のモノを消すと蒸気すらなくなってしまっていた。
「日よ、大地を照らせ!月よ別てよ!」
美舞が光鋩の一筋を月のモノ日のモノに向けて当てた。
すると、宇宙船から見る地球の夜明けの様に、月と日が別ち、光の小さな塊を作ったかと思うと日輪が翳し出し、金環食になり、とうとう皆既日食が終わった。
大地は素晴らしく神々しい陽射しに溢れ出した。地球一杯を照らされ、美舞や玲やマリアやウルフの四人は歓喜に満ちた。
「美舞・・・!」
三人が駆け寄って来て美舞を抱き締めた。美舞の体は熱かった。
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美舞は自我がホワイトアウトしていた。
「僕・・・。僕は・・・何ぞ?」
自分と対話していた。
「僕は誰って事だよね?僕は一体誰なんだろう。」
じっとしているだけに見えてかなりセルフコントロールに努めていた。
「僕はマリアとウルフの子。聖と魔のハーフ。両の掌に五芒星と逆五芒星の痣を持つ秘密がある。」
暫くその秘密の重みに圧されていたが、はっとした。
「その前に母さんが父さんを愛して産んでくれた人間じゃないか!」
美舞の心に強く念じた。自分を知る事は強くなる第一歩である。
「僕・・・。そう言えば、玲君と手を繋いで神になった事があったっけ・・・。」
次第にホワイトノイズが聞こえ出した。
「何?聞いた声がする。誰だろう?あたたかい。とてもあたたかい。」
落ち着いて来た。
「トクン・・・。トクン・・・。」
美舞は最後迄克己していた。
「美舞・・・。」
マリアの声であった。
「大切な美舞・・・。」
ウルフの声であった。
「愛しているよ、美舞・・・。」
玲の声であった。
美舞の瞳が魔なるモノと聖なるモノの力、金縛りや幻覚を破り桜の花が開く様に目覚めた。“大切な愛”を感じた美舞のエネルギーは今迄にないものであった。美舞に宿る自然の力と愛の力が心の奥から生まれて来た。美舞が、マリアがウルフの子として宿り約十月、そして産声を上げて生まれて最初に溜めた空気、それを一気に吐き出した。
「は、ああああああああああああああああああ・・・・・・・・!!!」
美舞の左手の聖なる印、五芒星の痣が光鋩を放った!
美舞の右手の魔なる印、逆五芒星の痣が光鋩を放った!
「僕は、マリアとウルフの愛の結晶、三浦美舞だ!」
両の光鋩が重なった。
「そして、土方玲を愛している・・・!」
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ウルフとマリアを手玉に取っている一方、六のモノは皆どろどろどろろと音を立てて大首絵の様に迫って来て、玲を一視した。
「裏切りモノの土のモノめ!」
火のモノがケタケタと笑い、炎をぼうっと飛ばした。玲は素早く片手を地に付けて回転して躱した。
「土方玲、そなたの父、土方葉慈を殺したのは吾らなり。」
月のモノが強い影を与えた。玲はその場に金縛りにあってしまった。口も利けない状態になり、蝋人形の様になった。
「どうしたの?玲君!?」
美舞はマリアとウルフに応戦しようと思っていた所であったが、玲の異様さに気が付いて踵を返して近付こうとした。しかし、六のモノの視線は美舞にも向けられ、行く手を阻まれた。
「土のモノは聖なるモノから魔なるモノに落ちて行って、又吾らを裏切り“人”と同衾した。」
口々に聞こえるのが谺した。木のモノが美舞や玲やマリアやウルフの四人に起こした仕業であった。
火のモノは四人の足元に大きな炎の輪を作り、月のモノは又強い影を放ち四人共金縛りにさせた。魔のモノの得意技の様であった。
金のモノは大きな金の斧に襲われる幻覚を起こし、水のモノは火の輪の周囲に果てしない湖を作った。日のモノが一旦頗る眩しい閃光を与えた。
そして、月のモノと日のモノが同意して、とうとう日光を消し去った。皆既日食であった。これが魔なるモノと聖なるモノの力であった。
「マリア、お前は私の娘だった。聖なる娘、マリア・・・。」
日のモノが泣き咽ぶ様に言った。
「ウルフ、お前は私の息子だった。魔の息子、ウルフ・・・。」
月のモノが冷徹な声で言い放った。
「美舞、お前は運命の子。吾らが捜していた運命の子。聖でも魔でもない。・・・では何ぞ?」
日のモノと月のモノが口を揃えて言った。
「では、何ぞ?」
再び日のモノと月のモノが口を揃えて訊ねた。
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どうやら気から察するに位の低い順に登場したらしい。魔のモノが三、聖のモノが三、美舞達四人の前に立ちはだかった。
そのモノ達は、魔のモノや聖のモノと呼ばれながらも、臭気の様に闘気がムンムンとしていた。
マリアが先制を放った。
カッ
左の掌に気を込めて、木のモノに聖なる光球を与えた。一直線に木のモノに当たり、一時は木のモノを斃したと思えたが、それは甘かった。
「吾を見くびるな。」
そう言うと木のモノは蔦をマリアに絡めた。
「う・・・。こ、この位・・・!」
カッと左の掌を光らせると食い千切る様に蔦から逃れた。しかし、魔のモノの攻撃は続いた。
「火の業火。」
火のモノがマリアの体躯を取り巻く様に焼き尽くそうとした。
「うああ・・・!」
左の腕でクロスを描き火を払ったが、その痛手は酷く、火傷をあちらこちらにした。
そのマリアを背にして闘っていたのはウルフであった。
「吾の力も受けよ。」
金のモノが聖なるモノの一番を名乗り出た。
「ここは私に任せなさい。」
ウルフは受けて立った。
聖なる力が込められた金粉の様なものが吹雪の様に降り注ぎ、ウルフは窒息しかかった。
「ん、んぐう・・・。」
カッと右の掌を光らせた。その手で口を覆うとウルフの口から入った金粉の様なものは右手に吸い込まれて行った。そして手で体の周りに円を描き、次々と金粉の様なものを取り除いて行った。
「こ、この位ではまだまだ・・・。」
そう言いつつもウルフにダメージは強かった。足をよろめかせた。
「水の矢。」
数々の水の矢の様なものがウルフを攻撃した。半分程は躱せたが、半分は体躯のあちらこちらに当たってしまった。
「うお・・・。水なのに熱い!」
流石のウルフも倒れそうになったが、何とか持ち堪えていた。
兵であるウルフとマリアであっても苦戦していた。傭兵の頃とは全く闘い方が違う。しかし、この二人は困難にあっても挫けやしなかった。
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第21章 仇討
「八重桜が綺麗な所があるのですが、どうやら私はそこに不思議な気を感じるのです」
玲が口火を切った。玲の父、葉慈が殺されたのである。熱さは人一倍であった。
「あ、あの桜?この間の徳乃川神宮の森で見た・・・!」
美舞がはっとして玲に訊いた。
「はい、そうです・・・。」
玲が言い掛けると、ウルフが口を挟んだ。
「この間のって何だい?」
眉間に皺を寄せて眉をぴくつかせ、玲の顔に己の顔を近付けた。
「やめなさいよ、ウルフ。」
「わかったよ。マリア・・・。ぶつぶつ。」
渋々パパ司狼を止めてウルフに戻った。
「ぶつぶつ煩いと、怖いわよ、ウルフ。」
マリアが左手の拳を鳴らして言った。
「よし、行ってみよう。四人で。」
ウルフの掛け声で一気に徳乃川神宮の森に辿り着いた。皆足が速い。
「おかしいですね・・・。この間とは違いますね。美舞さんを神が憑依した時と同じ気を感じます。」
玲の「感」も研ぎ澄まされていた。
「僕も、今なら分かるよ。この間はなかった気だ。」
美舞が続けた。
「特にあの八重桜!!」
美舞がそう言うと、突然にその大木の八重桜が勢いよく散った。
一枚の花弁から異形のモノが現れた。そのモノは魔のモノと思われた。額に逆五芒星があった。
「吾は木のモノ。」
続いて又一片から異形のモノが現れた。そのモノも魔のモノであった。
「吾は火のモノである。」
又一片散り魔の異形のモノが現れた。
「吾は月のモノなり。」
今度は雰囲気が変わった。
一片落ちる際に不思議なモノに変化した。そのモノは聖なるモノと思われた。額に五芒星が印されていた。
「吾は金のモノ。」
続けざまに一片から変化した。そのモノも聖なるモノであった。
「吾は水のモノである。」
もう一片から変化したモノも又聖なるモノであった。
「吾は日のモノなり。」
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「こんな仕業をするのは、人間、いや、人類には出来ない。きっと聖魔が絡んでいるに違いない・・・!」
異常な死に方が分かった時に真っ先に憤りを隠せなかったのは司狼であった。
「自分の運命は享受できるが、葉慈だけは・・・。あんな事になるなんて。」
立ち上がって、右手を震わせた。
「母さんも聖魔が絡んでいると思うわ。」
左手の革手袋を引き締めて立ち上がった。
「父さん、母さん。それじゃあ、僕も黙っていられないよ。」
美舞もギラついた瞳で立ちあがった。仄かに両の手の痣に紫煙が見える。
「・・・。」
玲も立ち上がった。
「美舞、そう言うと思ったよ。」
司狼が続けた。
「土方玲君。君は、右手に痣はないが、力を消失する力を携えているそうだね。葉慈の日記で分かったのだよ。」
玲の方を見て言った。
「司狼、決まりね。」
真理亜が好戦的な顔でアルカイックに笑った。
「四人で真相を知りに行きますか。」
皆に答えを訊く迄もないが、司狼が真理亜と同じ表情で笑った。
「報復なんて汚い事かも知れない。でも美舞も狙われている現状、相手の事を知るのは大切な事だ。」
司狼ことウルフがリーダーになって纏めた。
「僕は、勿論闘うよ」
美舞。
「父の仇。仇討させて戴きます。」
玲。
「皆、気を付けて行くのよ。」
マリア。
「O.K.・・・!!」
こうして四人の兵が揃った。
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「そうだ、玲君、大切な話がある。」
いつになく真剣な顔の司狼。
「言い難いが、君の父、土方葉慈は殺されたと分かった。」
玲の表情を見つめていた。
「・・・。」
あの怜悧な玲が衝撃を隠さなかった。司狼もそれを見て、自分も苦しくなった。戦友なのである。戦場で刎頸の交わりを交わした仲なのである。
「くっ・・・。悔しいです・・・。」
正直な感想を伝えた。もう玲には親はいないのである。しかも殺されたのである。
「分かるよ。」
司狼が宥めた。気持ちを穏やかにさせようと肩を抱いてやった。
「一体、誰がどうやって・・・?」
玲が真相を知りたいのは至極の事であった。
「それが、聖魔なんだ。聖魔の仕業なんだ。いや、神も関わっているかも知れない。」
葉慈の事は、真理亜は司狼の口から語らせて上げたいと黙っていた。
「どうしてそれが分かったのですか?私には分かりませんでした。」
玲は縋る様な目つきで第二の父とも感じ取れる司狼に伺った。
「葉慈の場合、司法解剖されたそうだね。我々が、コネを使ってそのデータを見せて貰った。」
経緯を簡潔に語り出した。話が長引いては玲も辛かろうとの配慮であった。
「どうだったのですか?」
父が大好きだった玲。懐に秘めてある小さな尊影を抱いた。
「遺伝子が全て核から抜かれていたのだよ。解剖して、念の為電気泳動をしたデータには、下の方にカスすら流れて来なかったとか。」
意外な死因を司狼が舒した。
「そんな馬鹿な!」
美舞と玲が声を揃えて言った。高校生にだってそんな事があり得ない事だと分かる奇妙な出来事なのである。
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第20章 殺害の真相
美舞は、玲によって手厚く看護された。
美舞の部屋に入るのは憚られ、体躯はリビングのソファーに横たえられていた。白いシャツは何故か雷を浴びた筈だが焦げる事もなかった。そのシャツを開襟した。
「俺の不注意だった・・・。」
玲は右手を掲げ左手で自身の右手の手首を握り締めた。
シャララン。シャララン。美舞の家のベルが鳴った。美舞の両親がその晩遅く帰って来たのであった。
「美舞!どうしたんだ・・・。」
美舞の父、“白銀のウルフ”こと司狼が先ず駆け寄って顔を覗きこんだ。
「司狼、大丈夫みたいよ。」
美舞の母、“漆黒のマリア”こと真理亜が司郎の横に来て冷静に見て言った。
そして、自分の利き手でない右手で司狼の同じく痣のない手を取った。真理亜が気を美舞の胸の上に翳して与えると、美舞は目を覚ました。
「・・・。あれ?僕、どうして・・・?」
美舞が美舞に戻っていた。それを見て玲は胸を撫で下ろした。
「うん、でも何ともないみたいだけど。」
美舞は静かにソファーに座った。玲は傍に付き添った。司狼と真理亜は向いに腰掛けた。
「気を失っていたんだ。それからの事、自分が語った事は、両の手の痣に訊いてみるといい。」
玲はきっと何かある筈だと確信があった。司狼と真理亜も見守った。
「はっ。そうなんだ・・・。うん、うん。」
美舞は玲の言葉に素直に従い自分と会話をしていた。
「父さん、母さん、僕は神になっていたみたいだ。それも只の神でない様な・・・。」
そして、自分が語ったジーンアブダクションと神のカルマについて語り出した。美舞の両親は真剣に聴いていた。
「分かったよ、美舞。」
司狼も涙ながらに聴いていた。娘がこんな辛い目に会うとは。
「そうね、司狼。」
真理亜も勿論心配であるが、若い頃とは違い落ち着いて聴いていた。
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「人類の学者によれば、Y染色体は子孫に単純にコピーされ変化をせずに遺伝をするので、祖先を辿り易い。その結果分かった事は、染色体が傷付き易く修復も殆ど不可能である。そして矮化して行った事である。」
“吾”は続けた。
「人類は知らないが、その矮化を起こしたのは吾である。」
要は、突然変異は主にY染色体に行われていたのであった。
「つまり、簡単に言わばATGCの塩基配列を変えたのである。」
“吾”が嘲笑した。
「取るに足らない人類に与えた吾の制裁である。奢り高ぶっていたからである。」
一体人類の何が気に入らなかったのであろうかが玲にも分からなかった。
「処女懐胎がなされなければ、子孫はこれ以上繁栄されないであろう。吾らの子孫のキリストの生誕はマリアの不貞ではなく、処女懐胎の可能性を示唆したものである。」
又もや、実験的な事件を起こしていたのかと玲は憤った。
「しかし、男性がいなければ、恐竜の時代にシステムが出来上がった哺乳類によって子孫を産むのに必要な胎盤ができないので、処女懐胎等人類ではあり得ない。それが、現状である。」
至極の事であった。
「Y染色体が退化すると言う事は、逆五芒星の魔の力が衰えている事になる。」
成る程と玲も思った。
「女性のX染色体にのみ乗る聖の力を持つ左手に痣として五芒星が表れる人類と男性のY染色体にのみ乗る魔の力を右手に痣として逆五芒星が表れる人類とのバランスが崩れて来た。」
玲ははっとした。
「三浦美舞の力を利用するには、そのバランスの崩れた力の暴走を利用すればいいのを吾は知っている。」
玲の危惧がそうではなくなって来た。
「そう、お前の右手の事も知っている。」
心の臓を突かれた。
「聖・魔の暴走が間もなく起こる。人類も力を合わせる時が来た。」
闘えと“吾”こと“神”は言うのかと玲は問いたかった。
「その時が。」
そう語ると美舞は寝込んだ。
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第19章 ジーンアブダクション・神のカルマ
「吾は神なり。」
ガガガガガガガーン!!!
プラズマが表れ、雷鳴が轟いた。
美舞は美舞でなくなっているのが、玲にも見て取れた。オベリスクの様に尊威を持って聳え立っていた。
「吾は神なり。」
再び美舞に何か憑依したのが、玲にはゾクっとして感じ取れた。玲は口が利けなくなっていた。金縛りにあった。
「吾は、ジーンアブタクションを起こした。」
“吾”なるものが語り出した。
「その語り部となり給え。」
玲に語っているのか、内なる美舞に語っているのか、玲には分からなかった。
「人類は23対46本の染色体を持つ。その内、44本の常染色体の他に2本の性染色体があり、それらは性決定権を持つ。X染色体を二つ持つものは女性となり、Y染色体を持つものは男性となる。」
それは玲でも知っている事であった。
「女性のX染色体にのみ乗る聖の力を持つ人類は、左手に痣として五芒星が表れる。男性のY染色体にのみ乗る魔の力を持つ人類は、右手に痣として逆五芒星が表れる。」
その言葉で、マリアの左手に五芒星の痣があり、ウルフの右手に逆五芒星の痣がある事が確証された。
「吾はその聖なる人類と魔なる人類との純血種であり、吾の23番目の染色体には、一つのX染色体に聖の力のDNA配列が並び、もう一つのX染色体には魔の力のDNA配列が並ぶ。」
美舞の事であった。
「Y染色体は、X染色体から生まれた。今そのY染色体の退化が進んでいる。現在から遅くとも約600万年後には途絶えるであろう。」
“吾”の意外な未来予想図に玲は衝撃を隠さなかった。
「それはジーンアブダクションによるものである。」
“吾”は言い放った。
「ジーンアブダクションとは、吾が起こした遺伝子の革命的拉致である。つまり人類の言う所の突然変異である。」
玲にとっても勿論、突然変異を神である“吾”が行ったとは驚きであった。
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「美舞は唯一レモンティーが好きなんだね。」
今度は、玲がミルフィーユを食べていた。美舞はザッハトルテを眺めていたが、唾を飲んで一口食べた。
「うん、甘い物の中ではね。心太も好きだよ。」
喫茶店で大胆発言であった。それが可笑しくて玲は笑った。
「へえ、食べ物一つ取ってもお互いに知らない事ばかりなんだね。」
玲は美舞が初めて付き合った女の子の様であったが、何かとそつがない。
「はは。出逢ったばかりだもの。」
当たり前の事すら、そう箸が転んでもおかしい年頃になっていた。
会話がどんどん弾んだ。長居してはいけないとマスターに礼を言って店を後にした。割り勘にした所は美舞の提言であった。
色々なお店を見て回ったり、お互いの話をしたりと忙しく過ごした。初めて出逢った頃には考えられない程打ち解けていた。
「もう、帰ろうか・・・。」
どちらともなく言い出した。堪え切れないものがあった。夕陽が二人の影を伸ばした。時間が経ってしまったものは戻らない。
「そうだ。家のお夕飯は僕が作るよ。」
美舞の料理もマリアと司狼の仕込みで十分に堪能出来る。
「いいね。楽しみだなあ。」
そう言いながら二人は同じ三浦家に帰宅して行った。
三浦家の門扉の前に立った。玲が先に入り鍵を開けようと思っていたのであるが、美舞が庭に出て駆けだした。
「ただいま帰りました!」
美舞は元気に家に挨拶をした。
「待って、用心して!」
玲が美舞を引き留めようと腕を掴もうとした時である。美舞が急に振り返り、二人は手を繋ぐ形になったのである。
その時である。美舞に電流の様なものが走り、両の手の革手袋がバリバリバリと音を立てて破けてしまったのであった。
「しまった・・・!!」
玲のその声は雷鳴と共に掻き消された。
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「じゃあ、このお店にしましょうか。」
玲が知った店であるかの様にデートモードと言うより少し大人の店を選んだ。
「O.K.」
美舞は少し父の様なこの玲に段々と惹かれて行った。父さんもこうした店が好きそうだったからだ。
二人で蔦に貰われた煉瓦作りの少しレトロなお店を叩いた。中は、琥珀色の綺麗な家具で出来ており、ランプはアールヌーボーであった。蜻蛉の細工のランプの席に座った。
美舞はフォンダンの美味しそうに掛ったミルフィーユ、玲はザッハトルテを頼んだ。
「このお店は国際的だね」
玲が冗句を言った。
「ん?何が?」
意外で美舞は分からなかった。
「ケーキがですよ。二つ目のケーキはどうしますか?」
又、しれっとして言われた。
「え?二つ目!?普通一個だよ。」
美舞は一個でも甘くてたくさんなのに驚いた。
「二個ですよ。」
玲がおどけて日菜子の真似をし、口をとんがらせた。
「一個。太るよ、無駄に。体重なら鍛えて増やさないと。」
軽くムキになった。
「くすっ。普通、体重の話は筋肉で片付けない女の子が多いのですがね。」
本当に可笑しかったらしい。
「あ、生きて行くには大切な事だよ。」
又、ムキになった。
「まあまあ。ムキにならないでね。そう言う所が可愛いんですよ。」
こう言う台詞はちょっと恥ずかしいらしい。顔が軽く紅潮し出した。
「玲君・・・。」
美舞も頬が赤らんで来たのであった。
「美舞・・・。」
何となくそう呼びたくなった。
美舞は二つ目のケーキを頼む事にした。
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「此処もいいですが、そろそろ参道のウランストリートの方を歩いて行きましょうか。」
玲は自然と誘った。実は桜に気恥ずかしくなって来たのであった。美舞はそれに表だっては気が付かなかった。
「そうだね。ここもエネルギーに満ちていていいけれども僕達が自然の邪魔みたいな気がして来たよ。」
桜の持つエネルギーがまさか自分の生まれに関わっているとは未だ知る由もなかった。
「邪魔じゃないですよ。美舞先輩は特に。」
自然を愛する玲らしき発言であった。しかも美舞は別格の様であった。
「そう?何となくそう思ったんだ。それから、僕の事は先輩を付けないで呼んで欲しいなあ。」
何だか打ち解けて来て嬉しい美舞。
「分かりました。では、今度から。」
玲は畏まって西洋風のお辞儀を何故かした。
「あ、は。」
美舞はその滑稽さに微笑んだ。
ウランストリートに入った。此処は元徳乃川神宮の参道であるが、今はショッピングにとお洒落に立ち並ぶ店が多い。建物も何もかも瀟洒であった。
「ケーキでも食べますか?」
二人で店をウインドウショッピングしながら、玲はゆっくりと話しをしたいので勧めた。
「僕、甘いもの苦手なんだけど・・・。付き合うよ。」
悪い気はしなかった。でも、実は司狼が大の甘党なので、普段は辟易していた。
「よかった。俺はちょっとした甘いもの好きでして。」
正直に誘ったつもりであった。
「へえ。そうなんだ。」
軽く笑った。司狼も同じだから、それを言いたいのを我慢していた。美舞は少しファザコンであった。
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徳乃川神宮に来たのであるから、二人は目配せをして早速お参りに向かった。お賽銭が投げられると中で何と結婚式を挙げていた。ちゃりーんと言う音と厳かな式が不思議な空間を作っていた。
「ああ、綺麗だろうね・・・。」
うっとりと玲がちいさな声で話した。
「だろうって、何が?」
玲のこのうっとりとした目に美舞はちょっと恥ずかしくなってしまい、つい訊いてしまった。
「美舞先輩の花嫁衣装だよ。」
玲は微笑んでもの静かに語った。
「・・・!!な、何言っているの玲君!」
よく分からなくなって、顔の前で左右に両手を振った。その両の手には革手袋の新しいものが嵌められていた。司狼の部屋に予備があると玲も聞かされていたもので、大会の後火傷の様な痕が癒えたら、玲が包帯を解いて手渡してくれたものである。
二人は、徳乃川神宮の森を歩きながら話していた。学園都市にこんな自然があって綺麗だなと二人で木々の梢や小鳥の鳴き声を聴いていた。入学シーズンとあり、八重桜を見つめていた。
「俺は、美舞先輩と本当に結婚したいと思っているんだ。」
桜を見るとあの時の美舞の瞳を思い出して本音を言っていた。
「・・・。ど、どうして。そんな、会ったばかりじゃない。」
美舞は動揺を隠せないでいた。何を言ったらいいのか分からずに会ったばかりだなんて、一目惚れと言う事もあると言うのに言い出してみた。
「それは、今日、デートしてみて帰りに分かるよ。」
いつもの様に穏やかに美舞を落ち着かせる様に言った。
「普通、付き合って1日とかあり得ないと思うけど。」
やっと、冗句の言える美舞に戻った。
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第18章 衝撃の初デート
美舞と玲は同じ家に暮らしていた。玲は司狼の部屋を使わせて貰っていた。
美舞は今日は制服ではなかった。流石に日曜日であるし、私服であった。無地の白いシャツにミジンボーダーのグレーのTシャツにデニムのタイトスカートであった。
約束の時間の30分前にリビングに来た。美舞はいつも30分前行動を取っている。「そなえよつねに」なのである。
所が驚いた事にダイニングに玲を見た。玲は軽く手を振っていた。
「やあ、すっかり気が合うね。」
玲は爽やかさ満点でご飯にお味噌汁に鱚のチーズと塩昆布鋏揚げに玲の漬けた茄子をテーブルに並べていた。
「全く同じ時間だね。」
美舞も食事の支度を手伝った。
「最初に徳乃川神宮を見に行かないかい?こう言う所、俺は好きなんだ。」
玲は食事をしながら話し掛けた。
「僕もだよ。近くに居ながら行く機会が少ないんだ。嬉しいなあ。玲君も同じ趣味だとはね。」
お付き合いに疎い美舞でもデートとやらに少しわくわくして来た。
「じゃあ、出よう。」
玲が鍵を掛けてくれて、二人で徳乃川神宮へ向かった。
徳乃川神宮は美舞の家から徒歩20分程の距離である。道すがら、二人は先日の新入生歓迎大会の話で盛り上がっていた。
「俺は、結局は勝ち負けは結果だと思うな。」
玲は美舞をからかった。
「いや、あれは僕にハプニングがなければ、普通に闘えていたさ。それなら負けないよ。」
美舞も負けじ心でかなり冷や汗を掻きながら必死で熱弁をした。
とどのつまりは、最後の闘いで勝った負けたの事で、美舞も玲も負けん気は負けないと言う事がお互いに分かった。それが可笑しくて笑っていたら、丁度、神宮に到着した。
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「結婚を前提にお付き合いをして下さい。」
玲が言った。
暫く間があった。
「は、はあ!?」
日菜子の驚きは美舞より早かった。
美舞の目は丸くどんぐりの様になっていた。頬は次第に紅潮して来た。結婚を前提にするのも驚きであったが、お付き合いそのものも驚きであった。何も頭で整理が付かなかった。
「は・・・。はい。」
美舞はショックの余りO.K.した。
「先ずはデートですね。」
少し楽しそうな玲であった。
「デートですか・・・。」
美舞の口からデートなんて言葉が出るなんて自分でも信じられなかった。
「ええ・・・?デート?美舞が?」
日菜子が口をとんがらせた。
「以前からお願いしたかったのですよ。でも美舞さんは強いタイプがお好きだとかで、この大会が終わってから申し込もうと思っていたのです。」
告白は計画的にすると言う玲の慎重さは石橋を叩いても渡らないであろう。
「い、行くの?美舞。」
信じられないのは日菜子もそうであった。
「うん。約束だし。」
素直な判断の美舞らしい答えであった。
「結婚を前提にとか言っているよ。」
日菜子は狭い医務室なのにぼそぼそと言った。
「僕だって、約束は守らないといけないと思っているんだ。闘ってみて分かった事が沢山あるし。」
素直過ぎる美舞の可愛らしさに卒倒しそうな日菜子であった。玲もそうであろうか。
「じゃあ、来週の日曜日でいいですか?」
早速誘う玲。
「何でも来いだよ。」
包帯を付けた侭両拳を小脇に寄せる様に引いた。
「場所は、学園の近くで済まないけれども、徳乃川神宮の近くと参道のウランストリートでいいいかな?」
玲の怜悧な雰囲気も和らいでいた。
「O.K.、玲君」
美舞は順応性が高い様だ。
こうして美舞は初デートを決めた。結婚を前提のお付き合いだそうである。
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「な、何を信頼って・・・?」
美舞は何か玲と会話をしていると自然とどきどきするのが不思議であった。
「美舞先輩は強さだけでなく毅さもあるって事ですよ。」
強さと毅さ。備え持つ者は本当につよい。テレパシーでもあるかの様に玲にも同じ考えがあった。
「その台詞!ぼ、僕と同じ考えだ・・・。」
図星を突かれて痛かった。再びどきどきが止まらなかった。
「そうなのですか。」
玲はしれっとして言った。
「あ、そう言えば、大会は?・・・僕、負けたんだね。」
美舞は初めて両親以外で負けたので実は少し落ち込んでいた。
「あ、美舞、大丈夫よ。何か・・・、そう、ちょっと意地っ張りが玉に瑕なだけなんだから。」
日菜子のエールはいつもあたたかかった。
「勝たせて貰いましたよ。でも、俺の力で勝った訳ではなかったのですがね。」
例の力の暴走の事である。ある程度玲も予想していたのでその辺りは大丈夫であった。
「そう・・・。」
段々思い出して来た。
「あー!」
美舞の奇声。
「何?美舞!」
日菜子の方がびっくりした。
「約束・・・。」
美舞は玲の顔をじいっと眺めてぼそっと言った。
「ああ、『もし、俺が勝ったら俺の言う事を一つ聞いて下さい。』ですか?」
玲はにこにこしていた。
「う、ん。倒れていた間に魘されて聞こえて来たよ。」
美舞は先程の声の事を思い出した。
「はは、それは光栄だなあ。」
軽く照れ笑いをされてしまった。
「そうなの?美舞、言う事聞くって、用件をよく訊くのよ。」
日菜子は今迄ボーイフレンドをかわして来ただけに余計にそう思っていた。
「うん、分かった。」
美舞は基本素直で正直なのである。それが玉に瑕になる事もあるが。
「玲君、どんな用事なのかな?」
思い切って美舞は玲の顔をしっかりと見て訊いてみた。
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第17章 約束
「・・・が勝ったら・・・聞いて下さい・・・。」
玲の声である。何か聞き覚えのあるセリフであった。運命のシナリオの様な。
「?」
何であろう。
「もし、俺が勝ったら俺の言う事を一つ聞いて下さい。」
美舞の中で声がしていた。
「・・・。」
何であろう。美舞はそう再び思った。桜の花を開く様に静かに瞑っていた瞳を咲かせた。
「玲く・・・ん?」
半分ぼうっとして話していた。
「あ、美舞起きたのね!?」
日菜子はぴょんと跳ねてから医務室で眠っていた美舞を覗き込んだ。
「あ・・・。ひなちゃん。玲君・・・。」
美舞は周りを見て少々驚いていた。
「大丈夫?美舞?」
ベッドの傍から両手を握ろうとしたが、美舞のぐるぐる巻きにされた両手を見ると可哀想になって止めた。包帯で五芒星と逆五芒星の痣を隠したのは玲であった。その処置は手早く、医学の心得がある事が伺われた。
「気を失っていただけみたいですね。」
玲は心配したにしても大袈裟にはしない主義である。事実を述べて安心させると言う方法を取った。
「あ・・・。そうなんだ。」
美舞は長い一日について頭を巡らした。やっと少し思い出しながら納得した。
「もう、美舞ったら日本一なのは空手だけでなく心配を掛けるのもだわね。」
日菜子につんとおでこを突かれた。
「ひなちゃん、ごめん。それから、玲君にも心配掛けたね。」
美舞は心からそう思ってお礼を舒した。そして、ゆっくりとベッドから起き上った。もう大丈夫と微笑んだ。
「いや、俺は心配していなかったですよ。」
いやに静かな美舞に玲が不意を衝いて言った。
「え?」
作戦はその侭美舞を襲った。
「信頼していたからです。」
玲のあたたかい眼差しで先程の無礼を詫びる様に首を垂れた。
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「ぐぅ。」
美舞は背中の痛みよりも自分の脆さが悲しかった。闘いの事よりも精神の脆さに。今迄両親との数々の修行や自分で力を鍛えて来た筈の自分の存在意義は未だ知らぬ玲によって無に帰されようとしていた。
「負けるもんか・・・。ま・け・る・も・ん・か・・・。」
美舞の目には子供が喧嘩に負けそうになってそれを覆そうとする、ある意味で純粋な欲望が宿っていた。
「負けるもんかー。」
美舞がそう叫んだ瞬間、美舞の両の手袋が外れて閃光が零れ出した。それは光の鋩の様であった。マリア球体と違って、手の甲から漏れたのは八方へ向かう槍に近かった。
力は使わない筈であった。なのに思わず観衆のいる前で、もしかしたら、神・聖・魔の見ているかも知れない場で露呈してしまった。美舞に今、その自覚もない。コントロールも効いていない。
所がである。玲が落ち着いて即座に光芒の様に漏れる力を抑えた。
「・・・グングニル。」
右腕を伸ばし右へ手首を回し遠隔から呪文らしきものを唱えた。誰も見ぬ間の出来事であった。
マリアとウルフと違い、二人共光球ではなかった。美舞はマリアとウルフのハーフである。力がどう表れるかは、生まれてみないと分からなかった。玲は未だ正体不明であるが、美舞の暴走を止める事ができる事は判った。
美舞はそれっきり呆然自失と言っていい状態でフッと倒れた。
玲は、美舞を抱き抱えて、闘技場を静かに降りた。
「今新入生歓迎大会の優勝者は、・・・土方玲。」
放送も空しく玲と美舞は会場を去った。日菜子も心配して二人の後を慌ただしく追って行った。
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美舞は、玲を相当警戒していたのか、防御の姿勢に入った。“漆黒のマリア”と“白銀のウルフ”が出逢った時、すぐさま闘いに入ったが、その時の“漆黒のマリア”の構えに似ていた。右足を踏み出し、右手を顔の下に構え、左手を胸の辺りに置いた。
「人前で使ってはいけない力を封印しての闘いになる・・・。」
そう言い聞かせての実力を抑えた構えであった。
それに対し、玲は、攻めのポーズに入った。“白銀のウルフ”の構えに似ていた。美舞の構えを鏡に映したように左側を前に出していた。玲にとっては闘い易い構えであった。
「美舞がそう来るのなら、俺も封印する・・・。」
そう心に叫び、お互いに牽制しあっての結果相反して鏡のポーズを取ったのであった。
暫しの間があった。黄昏時でこの間は二人の長い影を陽炎の様に揺らめかせた。
二人は同時に地を蹴った。
そのタイミング迄も先刻のマリアとウルフの闘いの如くであった。
ガッ
二人は同時に地を蹴った。先ず、美舞が玲の腹部に拳をふるった。玲はそれを難無く右手で払い、払いつつも左手で脇腹を殴った。流石に擦っただけではあったがプライドの高い美舞はカッとなった。若い頃の母親、マリアそっくりであった。
「・・・くっ。」
美舞は今迄にない屈辱感を味わっていた。僕の攻撃は一つも当たらないのに、玲の攻撃が当たってしまう。それは今迄の対戦相手には決してあり得ない事だった。そして美舞が焦れば焦るほど美舞の攻撃は当たらない。玲の方はというと、余裕綽々という表現がぴったり来るほど難無く闘っていた。象が蟻を弄んでいる様にも取れた。
「どうしたんですか?それが三浦美舞の闘い方ですか?」
玲は右手で美舞の左手を掴み、背負い投げのような感じで投げた。美舞は受け身もまともに取れず、背中を強かに打った。
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「・・・それから、変な事じゃなければいいよ・・・。」
少し顔を赤らめて斜め下を向いた。
「ははっは。『もし、俺が勝ったら俺の言う事を一つ聞いて下さい。』ですか?」
玲は、額に手を当てて鳥が歌う様に笑った。
「うん。変な事じゃなければね!」
ちょっと意地を張り過ぎの美舞。笑われたのがそんなに悔しかったのか。
日菜子も傍らから見ていて笑ってしまった位可愛らしかった。
「美舞って可愛いんだから・・・!結構隠し財産よ。」
日菜子はもうこの二人を弄りたくて堪らなかった。
「玲君お勧めよー!」
日菜子は冗句のつもりで叫んだ。
会場がわっと響めいた。
「何、何、なんなのさー!」
美舞の抗いは効かなかった。
「ヒュー!」
「ヒュー、ヒュー!!」
あちらこちらから、からかわれて、美舞は初めての感情を得た。それに対して説明が付かないのに更に困っていた。
「別にデートのお誘いって決まった訳じゃないんだから!僕達は・・・!」
躍起になる美舞。
「まあまあ。試合の前は、落ち着きましょうよ。」
玲のビターな笑いが止まらないのに、美舞は更に赤くなったが、直ぐにはっとした。
「そうだったね。試合の前は、気を高めないとね。」
美舞の眼が雌豹の様になった。ギラつかず、狡猾な瞳に玲はゾクっとそそられた。
「お遊びは、此処迄だ。」
お互いに昂りは充分に上げられた。
「了解」
二人は闘技場に登った。
パチパチパチパチ・・・!!
会場から拍手が上がったのは初めてであった。それ程に今迄の試合の素晴らしかった事とその決勝戦に期待が掛かっていた。舞台への足を進める度に双肩に重みを感じたが、それを跳ね飛ばす程のオーラの様なものがあった。
中央で立ち、相見た。
審判の声と共に、二人は礼をした。
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第16章 光鋩
さて、試合はとうとう決勝戦に迄進んでいた。
黄昏からの試合となった。
果たして、美舞と玲の試合はどうなるのであろうか。お互いに力は使わない拮抗した闘いを次に観て行こう。
『第一闘技場 三浦美舞 対 土方玲』
闘技場は静謐に戻った。さっき迄の響めきはなく、この二人に注視していた。
美舞と玲は未だ対峙する前であり、きちんと立ちそれぞれに控えていた。そして、何かに瞑想する様に目を瞑って俯いていた。傍から見たら何でもない間であったのかも知れない。しかし、運命の糸に結ばれた二人には、相通ずるものがあった。
美舞と玲の鼓動は高鳴っていた。それは二人共呼応し合っていた。
「トクン・・・。トクン・・・。トクン・・・。」
美舞の心臓が玲を訴えた。
「トクン・・・。トクン・・・。トクン・・・。」
玲も美舞に応えた。
さっき迄多弁であった美舞が流石に日菜子に話し掛けなかった。
日菜子は二人の様子を見つめていた。
「美舞、がんばって・・・!」
日菜子の心の強い呟きは、届いた様であった。
「大丈夫。僕はいけるよ!」
美舞は自分に言い聞かせているかの様であった。
「トクン・・・。トクン・・・。」
「トクン・・・。トクン・・・。」
再び、相惹かれあう心音が呼び合った。
美舞は桜の花が開く様に静かに目を開いた。
「桜・・・?」
玲は美舞の本当を見た気がした。
そして、美舞にしては意外にも厳峻な様子で玲に語った。
「緊張はしていないよ。」
負けじ心丸出しである。
「そうみたいだね。・・・まあ同じかな。」
くすっと玲が笑った。可愛いと言った風であった。
「只、高鳴るだけなんだよ。僕、こう言う時って。」
美舞のいつもの癖が出た。それが分かってしまっているのが、少し怖かった。これが、美舞の青春であるとは思わなかった。
「うん。分かる。分かるよ、美舞。」
玲とは相通ずるものがあった。
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『第二闘技場 土方玲 対 月代夕矢』
こちらはもう試合が始まっていた。
「月代くん、何パーセントの力で闘っているんだい?」
もの静かな玲の声色。
「そうですね。ご想像にお任せ致します。」
夕矢の口元が笑っている。玲と夕矢は同級生だ。遠慮はない筈だが、最初はお互いの手を見ていた。
「では、100パーセントじゃないんだね。」
勿論、玲もこんな力では済まされない程である。夕矢が余裕綽々の内に会話をしておこうと思ったのであった。美舞にもそうした強いもののゆとりと言うか傲慢さがあるが、玲は上を行っていた。
「ええ、まあ。」
当然したりの夕矢。
「遠慮なく行かせて貰うよ。」
再び構えに入った。
「どうぞ」
夕矢もそうである。
お互いに距離を取った。普通なら、組手に回ると思われたが、違った。
「は!」
「はあ・・・!」
両者が空を飛んだ。夕矢の蹴りは玲に躱されてしまい、玲が夕矢の鎖骨付近を真上から蹴り落とした。
「ぐ・・・。うお・・・。」
夕矢が転げ回った。
「ほんの数パーセントだが。」
意地っ張りの玲であったが、これも実力である。
幾分も接戦にならず、前半が演武に過ぎなかったと言うだけで、試合は終了した。
「勝者は・・・、土方玲。」
そう放送されると、第一闘技場から、日菜子のウインクが飛んで来た。二人とも同時に勝利したのであった。何もかも気の合う二人である。
試合は、二本先取制なのであるが、強い者同士闘っていると、一撃必殺のKO負けとなってしまうのが、新入生達にも試合を見ていて分かった。実力の差もあるが、実践に挑む兵達のそういった闘い方が反映されているのかも知れない。美舞は両親からの仕込みでその事が分かっていた。試合前のある種のオーラは、いつも出ている訳ではない。
「わくわくするんだよ・・・。」
日菜子にそう語った事があった。
血が騒ぐのであろう。
もう外は黄昏になっていた。黄昏迄の攻防は激しくも高度な闘いが続いたのであった。
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先制は美舞であった。歓声が上がるのが遅れる程に、さっと投げてしまったのである。観客からは、どれ程の技なのかさえ見当も付かなかった。マリアかウルフでない限り見破れないであろう。それから、玲もそうかも知れない。
柔一は何も言わずに動かないでいる。
審判の厳しい顔。
「止め。救護室へ。救護班運んでくれ。」
柔一は強かに後頭部を打ってしまった様だ。静かに運ばれて行った。一撃で斃されてしまったのである。
「勝者は・・・、三浦美舞。」
放送に会場は沸いた。分からないけれども凄い事だけは伝わった様である。
「試合なの?美舞?圧勝おめでとう。まあ、当然だけどね。」
礼をして闘技場を去る美舞に、日菜子はすまして言った。
「あは。僕は運がいいのさ」
そう美舞は又掌を返しておどけてみせた。
その時玲は第二闘技場に居た。
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第15章 黄昏まで
準決勝の結果残ったのは勿論実力を空手部でも認められていた美舞と玲、そして綺羅星の如く現れたのは柔一と夕矢であった。対戦は、美舞と柔一、玲と夕矢という組み合わせとなった。
それは引き続き会場に在る闘技場で行われる。再び、順に試合を一つずつ観ていく事にする。
『第一闘技場 三浦美舞 対 金山柔一』
美舞の相手は柔一である。
いつもながらに美舞より大きい相手と闘う事になる。少しもハンデにはならないが。柔一は、足腰が強く踏ん張りが強い。例の力を出してはならない美舞は、両親から教わった格闘の内、柔術で行こうと考えていた。柔一も柔道をやっていた様に見えるが、決して不利ではない。美舞は、あらゆる格闘技を学んでいたのだから。
「ふう・・・ん。今回は、こう行くか・・・。」
美舞は柔一を上から下迄見ながら考えていた。
またもや美舞は試合の直前迄日菜子と話をしていた。試合に歓喜を感じて仕方がないのである。
「ひなちゃん。決勝にも行けそうだよ。」
「美舞、油断は禁物よ。」
日菜子のウインクは可愛らしかった。
「そうだね。わかったよ。いつもありがとう。」
「美舞、又、大きくなったね。」
ちょっとした礼に機敏に反応してくれる優しい日菜子。
「背は伸びないけれどもね。」
両の掌を返し、少しおどけて見せた。
柔一は美舞との対戦は初めてであった。しかし、空手部にいて美舞の実力を知らない訳がなかった。かなり泰然とした彼であっても、美舞のオーラには負けじ心で対戦前から自己と闘っていた。
両者が闘技場へ登った。前へ出て一礼。
「よろしくお願いします。」
何か改まった風な美舞。
「よろしくお願い致します、三浦先輩。」
審判の声が闘技場に響いた。
「始め!」
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「甘い!」
百戦錬磨の功には全く効かなかったかの様である。次の攻撃に入った。近付いて来た夕矢にその侭拳撃を食らわした。
「ぐあ・・・!」
顳の近くに当たり簸んだ夕矢であったが、すぐさま、手を払う様にもう一度スナップをきかせて肘打ちをした。
功は打ち所が悪かった。何と人中に入ってしまった。裏拳である。
何も言わずに功は倒れ込んだ。
「あ、先輩・・・!」
まさかの夕矢の勝利に終わった。
「勝者は・・・、月代夕矢。」
放送で、夕矢は勝利を自覚した。
あっと言う間の出来事に会場は呑まれていた。
こうして、修羅の準々決勝は終わった。玲は刺客がいなかった事に本当に安堵していた。そして、少しでも強い者と闘った美舞は納得を頗るするのであった。玲の心配をよそに。
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『第四闘技場 月代夕矢 対 山下功』
夕矢は功を待たせてはいけないと随分と早くから闘技場に入っていた。
「いつもながら心掛けがいいな、月代。」
功は感心した。
「いえ、先輩に礼を尽くした迄です。何せ一番の実力者ですし。礼を欠かない。それが、空手ですし。」
夕矢のはんなりした風貌からは想像が付かないが、しっかりした人物である。
「両者、礼。」
審判の声に二人は従った。
「よし、分かった。では、参るぞ。」
功が礼を済ませてから言った。
「は!」
お互いに組み手を取ろうと構えた。
夕矢は身長169cm、71kgと小柄であるのに対し、功は181cm、85kgと大柄であった。二人とも格闘家なので、筋肉があり、見た目に比して体重があった。
夕矢のガードは完璧であった。流石の功も入り込む余地がない。
しかし、夕矢は落ち着いている様にみえて実力者の功を前にして焦っていた。じりじりと下がって行ってしまった。
「しまった・・・!」
そう思った時は遅かった。
リーチが夕矢より長い功は組み手が更に有利であった。さっと夕矢の懐に入ると、一本背負いを掛けようと先ず足を払おうとした。
「やあ!」
しかし、夕矢も一年生で残っただけの事はある。前蹴りで躱した。
「そうは行きませんよ。先輩、組み手ならリーチの短い僕の方の技でしょう?」
「分かっている。お前を試した迄だ。」
先輩の功は流石に違う。
「そうですよね。では、仕切り直しです。」
お互いに間合いを取っていた。何しろ夕矢は、功より守り型の戦法が得意である。
「はあ・・・。はあ・・・。」
夕矢の汗が畳に落ちた。
「ふうう・・・。」
呼吸を整える功。
緊張感が続いた。そう思っていたのは本人達だけで、時間にしたら幾らでもない。
「たあー!」
功の懐に夕矢が攻め入った。緊張のせいか技に力が入ってしまった。それを大きな体をしていても頭脳戦派の夕矢は、肘打ちをして度胸をみせた。
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『第三闘技場 水城猛威 対 金山柔一』
猛威は柔一より後から入って来た。
「待たせたな、柔一」
余裕綽々とした猛威に対して、柔一は怒り心頭であった。
「卑怯じゃ、猛威」
巌流島の闘いの様である。
「では、前へ・・・。」
審判の声が上がったか否かである。
「は・・・あ!」
先に抉るような前蹴りを入れたのは猛威であった。
「う・・・。ぐ・・・。」
不意を食らった。相当の打撃に柔一は172cm、85kgの体を格闘場に埋めた。フルコンタクト空手で、これは厳しい。
猛威は、得意技からで行く、先制攻撃で行く作戦でいたらしい。相手を怒らせたのは、礼に欠くが、格闘家ならではの作戦であろう。空手とジャンルを問わず格闘となれば、どんな作戦も効果があれば使っていいのである。しかし、武道には、“道”がある。柔道を極めた柔一には許せなかった。
「うおお・・・!許せんぞ。下郎が!」
のっそりと起き上った。
しかし、柔一の足の捌き。重い足刀を出しての横蹴りを食らわした。
「あああああ・・・!!」
猛威は相手を見下し過ぎた。ガードが甘かった。そこへの一撃に弱かった。
更に苦手な拳撃が効かない相手とあっては、どうしようもなかった。
接戦が続いたが、どんどんと息を切らして行く猛威に比べて、余裕の柔一であった。
「どりゃああ。」
最後に、“一撃必殺”の得意の踵を押し出すような足捌きの後くいっと手前に引く蹴りで柔一が勝利した。
「威ありて猛からず。貴様の名の反対じゃな。」
そう言い残して、礼をして柔一は退場した。
「勝者は・・・、金山柔一。」
放送者も固唾を呑んだ。
会場のざわめきで静かな柔一の言葉が聞き取れない程であった。
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『第二闘技場 土方玲 対 木田洋次』
玲が闘技場に現れるとほぼ同時に洋次が姿を見せた。玲は空手の道着をきちんと纏っている。洋次は普段着ているYシャツにネクタイ、ジーンズと、とても闘う格好でない。
「君のその格好は、わいを馬鹿にしてるんか?。」
空手の道着を着ている方を馬鹿にしているとは、洋次とどちらが馬鹿なのか。
「いいえ。」
玲は目を瞑り首を軽く横に振った。
「わいに負けても、言い訳にならんで。カカカ!」
小馬鹿にして挑発するつもりではなく、単細胞なのであろう。
「結構ですよ。第一・・・。」
玲は少し溜めた。
「何や。」
洋次はヤクザ風な言い方で舐め上げた。
「私は負けるつもりも、可能性も無いと思いますが。」
玲は至って冷静である。
「わいが弱いとでも?」
軽く拳を握って突き出した。
「いいえ。」
さらりと流した。
「私がとてつもなく強いのですよ。同じヨウジに育てられた者として許せません。」
そう玲が続けると、洋次は苛立った様であった。
「ほう。」
舐め上げる事二回目。
「ですから、負けても落ち込まないでくださいね。貴方程の使い手でも勝てない相手はいるのですから。」
アルカイックスマイルで応じた。
「ほざけ。」
洋次は言い終えると構えた。玲は両手を腰の横に垂らした状態で立っていた。二人が対峙すると審判は静かに試合開始の合図を出した。
「これで終わりや。」
洋次はそう言うが早いか玲の懐に入り込んで右上段回し蹴りを放った。次の瞬間、洋次は闘技場の上に仰向けになって気絶していた。
「勝者は・・・、土方玲。」
そう放送されると会場は沸いた。光輝は医務室に運ばれ、美舞は当然したりの顔をし、日菜子はきゃーきゃー言っていた。
闘技場から礼をして降りて来る玲に手を差し出して美舞は言った。
「おめでとう。」
所が、玲は手を取らなかった。しかしにこりと笑ってありがたく祝福を受けた。
「ありがとうございます。」
二人の準々決勝は終わった。残りの試合を見て行こう。
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「玲君・・・。」
いつも突然なのは美舞にとって恐怖であった。美舞が気配を察せられないと言う事がどれだけ恐ろしい事か分かっていたからである。
「大丈夫ですか?」
玲は真摯に気遣った。彼女を大切に思っての事か。
「まあね。このざまだけど。」
美舞は腕を挙げて笑った。
「彼はボクサーを続ければ間違いなくチャンプです。何故かうちに入る事にしたのかは分かりませんが。」
まさかと思っていたが、神・聖・魔の刺客でなくてほっとしていた節があった。
「そうだね。彼のパンチは利いたから。」
美舞は玲の心配をよそに上辺の話を続けた。
「まあ、とりあえず勝利おめでとう。」
そう言われて、美舞ははにかんだ。日菜子はくすりとした。
「ありがとう。」
玲といると心地がいい。リップサービスじゃない言葉だって分かっている。何か自分を心配してくれる、そんな所が気持ちがいい。日菜子とは又違った安心感があった。
「次は私の番ですね。」
玲は好戦的な目でもの静かに言った。
「勝って、僕と・・・。」
美舞がそう言うと。
「勿論。貴女ともう一度闘う為に。」
玲はそう言った。そして闘技場に歩いて行った。
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「何・・・、今の・・・。」
美舞はそう言うのが精一杯だった。
「ギブアップした方がいいぞ。次は本気で入れる・・・。」
光輝の誘いであった。
「冗談・・・、僕は負けるわけにはいかないんだ・・・。」
負けじ心なら誰にも負けない自信があった。
「じゃあ、俺は手加減しない。」
「望むところだよ。」
美舞は立ち上がり構えた。その構えは一切の無駄を省いた、完璧なものだ。一方、光輝もステップを踏んで、気を溜める。一瞬の勝負だ。二人の間に緊張が走る。先に動いたのは光輝だった。
「F.P.M.P.」
一瞬、光輝の右拳が光ったかの様に見えた。そのパンチは正確に十六発繰り出された。誰もが、その全てが美舞の体に吸い込まれるものと思った。美舞を除いては・・・。美舞にはその全てのパンチが見えていた。そして、その攻撃を全て躱しざま美舞は攻撃に移った。
「・・・グングニル。」
美舞がそう呟くが速いか右ストレートを放った。それは美舞のリーチを無視したかのように光輝に届き、吹き飛ばした。光輝はそれから五分は気を失った侭となる。
「勝者は・・・、三浦美舞。」
そう放送されると会場は沸いた。光輝は医務室に運ばれ、美舞はその場にへたりこんだ。
「大丈夫?美舞?」
日菜子はしゃがんだ美舞を覗き込んだ。
「ひなちゃん。」
ほっとした顔で見つめた。
「美舞も女の子なんだから程々にしないと・・・。」
ちょっとお姉さんな日菜子であった。
「うん。気を付けるよ。」
美舞の顔は腫れ、痣だらけとなった。腕にも痣ができている。日菜子に治療されながら、美舞は苦笑した。
「まさか、こんなに苦戦するなんて・・・、少し油断したかなあ。」
美舞にしては珍しく反省の度が濃い。
「そんな事ありませんよ、彼はかなりの実力です。」
背後から玲が声を掛けた。いつもの柔和な表情で美舞の心を落ち着けるように。
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―タタタン、タタタン―
一定のリズムを刻んでいる光輝のステップは、光輝がただ者ではない事を端的に示していた。
「ふっ・・・。」
光輝が一瞬、息を吸い込むと突然、美舞の視界に複数の光輝が見えた。
―タタタタタタタタ・・・・―
ステップの音が変わった、と美舞が思った時には美舞のガードしている腕に二発、ガードをすり抜けた右フックが左脇腹に、その一撃で下がったガードの上から左ストレートが美舞の頬を捉えた。そして、軽量の美舞は文字通り飛ばされて闘技場に仰向けに倒れた。
「痛っ・・・・。」
美舞はそう言うと右頬をさすり立ち上がった。右頬にはうっすら痣ができていた。
「お嫁に行けなくなったらどうすんの。」
美舞は本気とも冗談ともつかない言葉を発した後、構えた。
「なめていた訳じゃないけど、此処迄完璧に食らうなんて。」
「・・・・。」
光輝は無言を通した。
「結構、効いたかな・・・。でも、負けないよ。」
そう言うが早いか、美舞は右上段回し蹴りを放った。それは空しく空を舞った。それに合わせて光輝が反撃しようとしたが、続いて飛んで来た左上段後ろ回し蹴りによって阻まれた。そして、続けて右下段回し蹴り、左裏拳、右フック、右中段回し蹴り、左後ろ下段回し蹴りと繰り出す美舞の攻撃に光輝は防戦に回らざるを得なかった。
光輝が左後ろ下段回し蹴りを躱した時、一瞬の油断が生じた。その次の瞬間、光輝に顔面に美舞の右ストレートが見事に入った。
「があっ。」
光輝は低く呻き声を発するとふらふらと二三歩後退し、片膝をついた。打たれ強いボクサーの光輝でも結構効いている。
「あ、こりゃあ、本気でやらなきゃな。」
そう言うと光輝は立ち上がり構え直した。そして、再びステップを始めた。正確に三秒ステップした後、美舞は体の自由が利かなくなるほどのパンチを食らった。そして、スローモーションでうつ伏せに倒れた。
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「そうだね。」
美舞はしっかりとエールを受け取った。
日菜子も美舞とのこの時間を大切にしている。日菜子は美舞が闘いの前に必ずある種の雰囲気に包まれる事を知っている唯一の人間だ。
「ねえ、美舞。」
「ん?」
「大丈夫よ。絶対勝てる。」
女の「感」か、日菜子の断言は心強い。
「・・・・・ありがとう。」
そう言うと、美舞は闘技場に登った。そこには光輝が立っている。そして、審判が一人。
「それでは両者、前へ・・・。」
審判のその声に二人は前へ進み出た。
「よろしく。」
美舞は光輝に向かって手を差し出した。光輝はそれを一瞥すると、ふっと笑った。
「こちらこそ。先輩が女だからって手加減しませんよ。」
光輝は美舞の手を握ってそう言った。
「お手柔らかに・・・。」
美舞は苦笑いしながら、光輝を見、そして構えた。
「それでは始め。」
審判の声に二人は気を込めた。二人の間に緊張が走る。
美舞の間合いは光輝のそれよりも多少短い。20センチの身長差があるとリーチの差もかなりのものだが光輝がパンチしか使えないのに対し、美舞は蹴りが使える。それで殆ど間合いの差は無くなっている。
それをお互い知っているから迂闊には手が出せない。光輝はボクサーらしく小刻みにステップを踏んで、美舞の間合いを掠めた。それには反応する事なく美舞はじっくり光輝の動きを見つめている。光輝は自分の間合いで小刻みにジャブを繰り出した。それは空しく空振りするだけであったが、牽制としては十分だ。だだし、ジャブはグラブなしで当たっても大したダメージではない。美舞は光輝のジャブで間合いとタイミングを測っていた。
そして、光輝が攻撃に移る一瞬を捉えて右中段回し蹴りを繰り出した。それは光輝が右フックを出そうとして踏み込んだ左脇腹にカウンターで入った。
「ぐっ。」
光輝は苦悶の表情で低い声を漏らしたが、すぐに体勢を立て直した。そして、再びステップを踏み始めた。
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第14章 修羅
準々決勝の結果残ったのは玲を含む一年六人と美舞、三年の山下功である。
山下は男子部で一番強いのだから順当と言ってよい。しかし、一年が六人全部残るとは予測している者は希少だった。第一、徳川学園の空手部と言えば、日本でも指折りの空手家が揃っている事で有名なのである。その先輩部員が新入部員に負ける事を予想できる方が異常なのだ。
取り敢えず、準々決勝は美舞と火野、玲と木田、水城と金山、月代と山下という組み合わせとなった。
それは会場に在る闘技場で行われる。此処からは、順に試合を一つずつ観ていく事にする。
『第一闘技場 三浦美舞 対 火野光輝』
美舞の相手は光輝である。
オールマイティの美舞に対してボクサー上がりの光輝。光輝はボクサーとは言っても小柄で165cm、67kgしかない。それでも美舞より大きいのだから有利である。美舞の実力を知っている者はそのハンデも美舞には関係ないという事を知っていたが、それでも美舞が敗れる可能性を否定する事はできない。
光輝はこの体格差と自分の実力を加味した上で敗れる可能性は無いと思っていた。光輝はこの学校を選ぶに当たって自分のボクサーとしての力を認めて貰える事を前提にしていた。中学生にしてかなりの実力をもっていた光輝は実力主義のこの学園を自分を伸ばす場と考えていた。
そしてこの学園で最も強い人間が集まっている空手部に入部したのだ。
美舞は試合の直前迄日菜子と話をしていた。試合前の緊張には程遠く、緊張よりも楽しさを、恐怖より歓喜を感じている。
「ひなちゃん。今回も勝てそうだよ。」
「そう?でも、油断は禁物よ。」
日菜子は美舞よりしっかりしていた。普通の女の子と言っても、少し大人びた所もあった。
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「それで、優勝するのは誰かな?」
再び日菜子は訊いた。
「それは勿論・・・。」
『僕(俺)に決まっている。』
美舞と玲はハモった。素晴らしいハーモニーに日菜子はグッと来た。
「何言ってるの。昨日、僕に負けただろう。」
雛鳥みたいに口をぱくぱくして言った。子供っぽいのは母親譲りであった。
「今日は負けないさ。」
負けじ心はお互い様の玲。而して挑発の始まりであった。
「それはこっちのセリフだよ。」
雛鳥ちゃんは続けた。
「よし、じゃあこうしよう。もし、俺が勝ったら俺の言う事を一つ聞いて下さい。」
玲はちょっと軽く言ってみせた。
「・・・いいよ。変な事じゃなければね。」
少しぶすりとして美舞が返答した。
「よーし、頑張るぞ。」
玲は不気味な笑みを浮かべながら闘技場に向かった。それを見送りながら日菜子は呆れた顔を美舞に向け、囁いた。
「大丈夫なの?」
「何が?」
美舞は大切な時に限って素っ頓狂である。
「勝てるのかという事もそうだけど、あんな約束してしまって。」
日菜子は少し大人っぽい考えで制していた。
「大丈夫でしょう。僕は、先ず、負けないもの。」
自信だけは負けない。それも兵に必要なものだと信じていないと勝てない。
「でも・・・。」
日菜子は珍しく曇り顔であった。
「でも?」
本当に何の心配をしているのか同じ年でもこうも違う。
「負けるのもいいのかもね。美舞は奥手だから。」
少し微笑んだ。
「・・・。」
やっと、少しだけ意味が分かった。美舞は日菜子の言葉に赤面した。女の子としてはそれでもいいかなと思うところはあるのだが、格闘家としては負けられない気持ちが強い。
兎に角、玲と闘うには決勝迄行かなければいけない。それ迄負けないという保証はないのだから、一生懸命闘わなければならなかった。
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玲が説明するのを日菜子は頷きながら聞き、その横で美舞が何かを考えている。
「あともう一人、女子部ですが日下部涼さんもいいですね。」
突然女子の名が挙がった。
「どういう事?」
美舞がさらっと訊いた。
「彼女は女性にしては大柄ですが、動きに無駄が無く華麗です。攻撃が素早く重い、守ってもミリ単位で躱す。彼女は格闘家になる為に生まれて来たかの様ですね。」
べた褒めである。玲にしては珍しい。日菜子はそんな玲を見て、悪戯な笑みを浮かべた。
「美舞の前でそんな事を言っていいの?やきもち妬くわよ。」
「僕もそう思う。」
美舞はさらっと言った。見た目は平静であるが、内心は他人には分からない。
「あの子は、女子部を任せて行ける逸材だね。これで僕は男子部で気兼ねなくできる。」
「・・・。」
玲は美舞を見て不思議な感じになった。美舞の強さに対する真摯な気持ちはどこから来るのだろうか。両親の教育の賜物なのか、それとも血のなせる業なのか。そのどちらにしても美舞にとって棘の道になるだろう。その事を考えると玲はずっと美舞の側で見守って行こうと思うのであった。
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第13章 優勝談義
昨日が余りにも色々な事が有り過ぎて二人は忘れていたが、今日は歓迎大会の続きがある。美舞も玲も勿論出場する事になっている。注目すべきは、やはり混合の部で美舞と玲の外に一年生が五人、二・三年生が九人の十六人で準々決勝が行われる。偶然、一年生同士が当たらない様になっていた。会場で美舞たち三人は一年生について話していた。
「ねえ、玲君。一年生で一番強いのは誰かな?」
日菜子は聞いた。
「そうですね。先ずは月代夕矢君ですが、彼は攻めよりも守りに重点を置いた闘い方を好むようです。体が小柄でもスピードが無い彼にはそれが一番だったんでしょうが、決定打に欠けます。」
玲は続けた。
「次は火野光輝君。彼はどうやらボクシングを習っているようですね。蹴りは使えません。それでもパンチ力とスピードは光るものがあります。」
次々と語り出した。
「次は水城猛威君ですが、彼は火野君とは逆に拳撃が駄目です。その代わり蹴りが凄いです。自在の蹴りといってもいい。」
分析力はかなりある。
「次は木田洋次君ですが、彼は空手家としては二流だと思いますが、何故か残っています。格闘センスは悪くないです。」
実は彼の事は好きではない。でもきちんと誉めるべき所は誉めるのが玲である。
「最後に金山柔一君ですが、彼は柔道家ですね。あの足捌きは空手家のものではありません。パンチも蹴りも遅いですが重さは有ります。あと、捌くのが巧いので長期戦に向いているようです。」
かなり語り尽くしたが物足りなさそうな玲が少し可愛いと美舞は思った。
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「ねえ、玲君。」
日菜子は小股でちょこちょこと動いた。
「何だい?」
不意に近付いて来た少女に玲は美舞の友達と言う分類にしか入れていなかった。
「美舞の事はどう思う?」
いきなりの図星な質問のつもりであった。
「うーん。兎に角凄いよ、彼女は。女にさせておくには勿体ない。」
玲の正直な感想か、かわされてしまった。
「そうじゃなくって。女の子としてよ。可愛いでしょう、美舞。」
両目を瞬いてみせた。
「そうだね。」
美舞といい、玲といい、構造がシンプルなのであろうか。
「あれでも、学園内でも五指に入るわよ。勿論私もね。」
日菜子はしれっと言った。
「凄い自信だね。」
自信家は兵のみで結構と言うのが、玲の考えであった。
「美舞には自覚がないけどね。それでどう?」
お勧め度120パーセントの美舞は自慢の親友であった。
「そうだね。あと五年もすれば・・・。」
而して、美舞は好みのタイプであった。
「今の内に手を付けて置かない?」
そんな深い意味はない。女の子の噂話程度であった。
「でも、彼女は?」
その美舞自身の気持ちが心配なのは、思い遣りの表れであろう。
「美舞はああだから、なかなかね・・・。」
日菜子は溜息をつきながら美舞の方を見た。そして再び玲の方を向くと玲の胸を拳で叩き、微笑みかけた。
「まあ、頑張ってね。美舞はいい子だから。」
「知ってるよ。まあ、これからどうなるかは神のみぞ知るところだろうな。」
玲はそう言うと、美舞と並んで歩いて行った。その後を日菜子が付いて行った。玲の言葉が「深淵に臨んで薄氷を踏むが如し」であるとも知らずに。
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第12章 彼氏風景
翌朝、美舞と玲は一緒に登校した。その途中に日菜子と合流し、三人で学校に向かった。日菜子は美舞が玲と一緒にいる事に些か驚きはしたが、二人から理由を聞き、納得した。
「でも、美舞。」
「何?」
小柄な美舞は日菜子を振り仰いだ。
「玲君って格好いいよね。」
「そうだね。」
社交辞令程度であった。
「その上、強い。」
「僕よりは弱いけどね。」
負けじ心が激しいのは母親似かも知れない。
「美舞より強い人は少ないわよ。」
「まあね。」
ちょっと、両親に鼻っ柱を折られそうな発言であった。
「どう?」
日菜子の変な笑顔。
「何が?」
素っ頓狂な美舞。
「彼氏にしたら?」
「昨日会ったばっかりなんだけど。」
そりゃそうだと思いつつも日菜子は続けた。
「でも、美舞の護衛役なんでしょう。それなら、今の内にツバつけといた方がいいんじゃ。」
「そんなに、焦らなくても・・・。」
美舞は日菜子が色事に煩いので少々辟易している。
「あまーい。玲君ならもてもてよ。」
「死語だね・・・。」
美舞は切り捨てた。
「それはともかく、気合入れていかなくちゃ。」
「・・・・・・。」
二人の会話の聞こえない所に玲はいたから、まさか会話の内容が自分の事だとは思っていなかった。玲が二人の方をちらりと見た時、日菜子は微笑み、美舞は微かに赤面した。その様子を不思議そうに眺めていた玲に、日菜子は近付き美舞の心配をよそに話始めた。
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「美舞先輩のお父さんは魔なる者、お母さんは聖なる者の純血人類なんだ。そして貴女は・・・。」
「ハーフって訳だね。」
美舞は驚いている割には淡々と行った。玲は頷いた。
「聖魔のハーフは普通、力を失うんだけど、稀に両親の力を受け継いで生まれる者がいる。その時、そのハーフの力は強大なものとなる。」
「僕にそんな力が。」
両手を見つめる見舞に、玲が説明を続けた。
「その君の存在が、神・聖・魔に知られてしまった。そして、美舞先輩を手に入れようと動き出した。」
玲は怖い顔になった。
「何で?」
素直な美舞の反応であった。
「美舞先輩の力を利用して、地球上を支配するためさ。」
目を瞑って言った。
「僕はそんなのに協力する気は・・・。」
当然である。玲もそう思った。
「そこが不思議なんだ。彼らはどうやって美舞先輩の力を利用するのか。貴女の意志無くして力は使えない事は知っている筈だから、強引に拉致しても意味がない。・・・まあ、兎に角、俺は美舞先輩を護る為に此処に来たと言う訳だ。」
「でも・・・。僕より弱くてどうやって護るつもり?」
美舞はそう言うといたずら好きの少年の様な顔で笑った。玲はそれに苦笑しつつも言った。
「まあ、いないよりはいいでしょう。」
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第11章 狙われた神
「そして、今に至る・・・と言う訳だ。」
玲は一気に話し切った。その話の内容は、普通の人なら一笑に付すものだが、玲の真剣な顔をみて、美舞は信じざるを得なかった。実際、美舞はその力を使えるのであるから。
「で、僕が受け止めなければならない事って?」
美舞がさっきから気になっていた事を訊いた。
「ああ。その話には、まだ続きがあってね。」
「続き?」
「その時に残ったのは、新人類だけではなかった。」
「?」
美舞は疑問に思った。一体どうなっているのであろう。
「神なる者はとある国のとある高原に僅かながら残っている。勿論、力を持ち、高度な文明も持っているが、野心はなく、言わば新人類の傍観者という立場をとっている。」
「・・・。」
只、聞き入る美舞。
「そして、聖なる者も魔なる者も僅かながら残っている。でも、彼らは力を失い新人類と共に生きて来た。」
「ふーん。それで・・・。」
早く続きを聞きたかった。
「でも最近、その力を使えるものが出て来た。」
「え?」
吃驚する美舞。
「それが美舞先輩とそのご両親と言う訳。」
「???」
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新人類は忌まわしい力も無く、至って普通だった。
この時点で地球上には全人口の一割の神、二割の聖魔、七割の新人類がいた。新人類にとって他の種族は今でいう神にも等しかったから、神話の中に残される事になった。
兎に角、地球上は神と聖魔の監視の下、新人類によって支配される事になった。
それから、地球は順調に、そして平和に栄えていった。
しかし、神・聖・魔はその平和な時を退屈に思えて仕方がなかった。己の持つ力を試したくてうずうずしていた。その力は余りにも絶大で、使う事が即、滅亡に繋がる事を皆知っていた為、今迄力を使う事を抑止していた。
しかし、神の中に卓抜した力を持つ者が現れた。その名はカルキといい神の中の神と言うべき存在だった。カルキは神たちを支配し他の種族を滅ぼすべく行動を始めた。
それに対して、聖・魔は未だ纏まりを見せず、新人類に至っては手も足も出なかった。神の力は新人類にとって何の効力も持たなかったが、元々、文明的に進んでいた為、数の上で七倍する兵力もあっさり打ち破られた。聖・魔はそれぞれ神に対する対策を立て、何とか凌いでいた。それでも、やはり、神の軍勢に押されていた。
しかし、神が己の力に自信を持ち、それが過信になった時、力は暴走した。暴走した力は、力が影響する全てのものを飲み込みなぎ倒して行った。
そこに残ったのは、力の及ばない新人類や他の動物、植物だった。
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第10章 神・聖・魔・人
今から数千万年の昔、今の人類が生まれるずっと前、地球上には今の人類によく似た生物が住んでいた。
今の歴史観が覆される事実。
その生物はやはり、自分たちが住んでいる惑星を地球と呼び、地上で一番優れた生物であると思っていた。事実、その通りであったのだが、それはただの奢りでしかなく、その奢りは地球人類間でも成立した。
地球人には今とは違って、四つの種族がいた。
いや、正確には一つの上位種族と三つの下位種族が。上位部族は“神”という名を持ち、優れた力を持っていた。全ての人が今の人類には出来得ない素晴らしい力を持っていた。
しかし、時を経るにつれて、その力に優劣や善悪が現れ始め、聖と魔が生まれた。聖なる者と魔なる者は力が拮抗しお互いを牽制しあっていたが、ある時双方に卓抜した能力者が現れた。彼らがお互いの存在を忌み、互いに排斥しあったのは自然の成り行きであったが、それは余りにも無意味で悲しい事だった。
気が付いた頃には地上には僅かな人類が残るのみであった。残った 人類は己の愚かさを悔い、互いを認め合って、共存し始めた。
この時、特殊な力は聖魔の区別がはっきりしていて、相いれないものであった為か、互いが結ばれた末に生まれた子供達は、力を失っていた。
それが今の人類の祖先である。
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美舞は驚いた。美舞が持つ特殊な力の事は両親以外は知らない筈だった。
「それは後で説明するよ。兎に角、一度見せてくれないかな。」
「でも・・・。」
「大丈夫だよ。何も悪い事している訳じゃないんだから。」
玲は諭すのが上手であった。
「でも、父さんと母さんに禁じられているし・・・。」
「わかった。じゃあ、俺が先ず見せてあげるよ。」
そう言うと玲は目を閉じ、精神を集中した。そして、右手をサンドバックへ向けた。
「・・・!」
玲が気を込めると目の前のサンドバックは消滅した。
「凄い。」
美舞は再び驚いた。自分たち以外にこんな力を使える人間がいるとは思っていなかったのだ。
「今度は美舞先輩の番だ。」
「・・・まあ、いいか。じゃあ、行くよ。」
美舞は左手の革手袋を脱ぎ、それを胸の辺りに置き、気を入れた。すると、拳から薄紫色の煙の様なものが浮き上がった。そして、手のひらを外にあるコンクリートの壁に向けた。
「はあっ。」
美舞の左手から放たれた薄紫色の気はコンクリートの壁に当たり、壁は粉々に砕けた。
「うん。すごいね。こっちの方も及第点か・・・。」
「で、さっきの話だけどね、僕には知る権利があると思うんだけど。」
「うん。美舞先輩には知る義務がある。」
「義務?権利じゃなくって?」
「そう、義務。美舞先輩は今から俺が話す事を知り、理解し、受け止める必要がある。それは避けられぬ事実なのだから。」
「・・・。」
「じゃあ、今から話す事を聞いてくれ。」
玲と美舞の秘密が明かされる事になった。
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「凄い・・・。」
玲は素直に驚き、称賛した。
「信じられないなあ。美舞先輩に俺の蹴りを完全に受け止められるなんて、思ってもみなかった。俺の方こそ自惚れてたみたいだ。」
「ううん。流石に効いたよ。こんな重い蹴りは初めてだよ。父さんだって、こんなに重い蹴りは放てないよ。」
「それは光栄だな。お世辞でも嬉しい。」
玲は謙虚である。
「マジで・・・。」
「じゃあ、続きを・・・。」
「行きましょうか。」
そういうと二人は互いに左上段回し蹴りを繰り出した。それはお互いの顔面に当たる寸前で、お互いの右腕でガードされた。二人は態勢を立て直し、再び構えた。
「やぁ。」
今度は玲が先に動いた。玲の右正拳が美舞の顔面に迫った。それを美舞は左腕で受け流して、右アッパーを玲の腹部にみまった。玲はそれが当たる瞬間、腰を引いて衝撃を受け流そうとした。しかし、美舞の力は予想以上に強く、防具を着けているにも関わらず、かなりのダメージを食った。
「ま・まいった。」
玲はそう言うと、その場に座り込んだ。
「大丈夫?ちょっと、入っちゃったかな?」
「いや、大丈夫。」
玲は顔を顰めて言ったが、口元は笑っている。
「?」
「嬉しいのさ。美舞先輩の強さは本物だ。」
「そうかなあ。でも、誉められると嬉しいな。」
美舞は照れた。それに対して玲の顔は真剣だ。
「あとは・・・。」
「あとは?」
「力を・・・。」
「!」
「試させてもらわないと。」
「何故・・・。」
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「僕は君の強さに魅かれている。僕がもっと強くなるのには、修行あるのみ。君にそのパートナーになってもらう。それなら、此処に居ていいよ。」
美舞はそう言うと照れ笑いを浮かべた。
「ありがとう。喜んでスパーの相手を務めさせてもらうよ。・・・じゃあ、早速、一戦。」
「O.K.」
そう言うと二人はトレーニングルームに入り、防具を着け対峙した。美舞は好戦的な笑みを浮かべ、玲の方を見ている。一方、玲は穏やかな顔で目を軽く瞑り両手を軽く垂らした。
「行くよ。」
美舞はそう言うといきなり右正拳で玲の腹部を狙った。いつもの相手ならそれは見事にヒットする筈だった。しかし、玲はそれを殆ど無駄の無い動きで躱した。美舞は態勢を崩したがそれでも次の攻撃を繰り出した。
「やあっ。」
美舞が繰り出した左フックはまたしても空を切り、続いて出した右中段回し蹴りもあっさり躱されてしまった。
「くっ。」
美舞は焦った。今迄両親以外に苦戦する事が無かったのだ。美舞が出す拳や蹴りは空しく空を切り、玲に触れる事が出来ない。玲が守りに徹しているとはいえこれは美舞にとって由々しき事態だった。
「どうしたんだ。美舞先輩の力はこの程度だったのか?」
玲は皮肉を込めて言った。美舞が持っている一種の自惚れを、なにげに示唆したのだ。自分より強い者は幾らでもいる。その事を知ってはいても、心の何処かで自分は一番強いという奢りがあった。だから、玲の力を計り間違えた。
「あっ・・・。」
美舞はすぐその事に気付き気を引き締め構え直した。
「ありがとう。今度は手加減しないよ。」
美舞はそう言うと、玲は構えを攻撃し易いものに変えた。そして突然、右上段回し蹴りを放った。
「ぐっ。」
美舞は玲の蹴りを肩口でガードした。玲は187cm、75kgあるから、美舞は吹き飛ばされる筈だった。しかし、美舞は1ミリも動く事なく、玲の蹴りを受け止めた。
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「じゃあ君は土方葉慈の息子なんだね?」
司狼が纏めた。
「はい。」
「で、葉慈は何故、亡くなったのだね?」
一番知りたかった事である。
「それが私が帰宅した時には既に亡くなっていたんです。死因は心筋梗塞で外傷も無く、薬物を服用した形跡も無い事になっています。実際、私が出来る限り調べた結果でも、他殺の要因が無いんです。でも、父は体の丈夫さにかけては折り紙付きですから・・・。」
眼差しの熱い玲であった。
「何か不思議な事だね。」
司狼は少し項垂れていた。
「それで以前から父が言っていた貴方達に助力を頼もうと思いまして。」
玲は顔を上げた侭続けた。
「そうか。よし。それではこれから私達二人で調査して来るから、君は家で寝泊まりしなさい。」
おじさん司狼のオオカミ発言である。
「え?と、父さん、何言ってるんだ。それじゃ、僕は・・・。」
あわあわと、流石の美舞も手を左右に振った。
「だからね、私達がいなくなると家には美舞しかいなくなってしまう。幾ら強いからと言っても女の子だから、父親としては心配だ。」
「母さんもね。」
物静かに語られた。
「でも・・・。」
意外と気弱な所がある美舞であった。
「だから、美舞のボディーガードも兼ねて、此処で生活して貰おう。」
立ち上がって拳を握り締める司狼。
「でも、ご迷惑じゃあ。」
玲は美舞の方をちらと見ていった。その目は嬉しさ半分、不安半分といった感じである。美舞はこんな目に弱かったりする。
「うーん、よし、じゃあ僕のボディーガードじゃなく、パートナーとして此処に住んで貰おうか。」
ゲンキンであった。
「えっ?」
玲は本気で目を丸くした。意味が分からなかったからである。
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第9章 秘密の絆
美舞の家は徳川学園都市の北端に建つ、普通の庭付き一戸建である。
一階にはリビング・ダイニング・応接間があり、二階には美舞の部屋兼寝室・司狼の部屋・真理亜の部屋・二人の寝室・トレーニングルームがある。
三人が住むには十分の広さで、友人の多い司狼には毎日と言っていいほど誰かが訪ねて来る。この日はたまたま、誰かが訪ねて来る予定もなく、いつもより静かな三浦家であった。その静寂も美舞の帰宅と共に一変する事になる。
見た目からは想像できない程騒々しくなってしまった中年男“三浦司狼”ことウォルフガング=アルベルト=ミュラーは娘の帰宅にいつも玄関で迎え、日課のように抱き締め、頬にキスをする。美舞は些か辟易している。それでも司狼には悪気がないのは明らかなので我慢をしている。
一方、往年の容色が些かも衰えていない、“漆黒のマリア”こと三浦真理亜は夫とは正反対で妙に落ち着いている。
二人は美舞が男友達を連れて来た事で先ず驚き、その男が自分達の知り合いの息子である事に再び驚いた。
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「それで、君の家は何処なの。」
美舞のその質問は、別の言葉で返って来た。
「突然で悪いんですが、貴女のお宅へ伺いたいんですが。」
玲の顔は真剣でかつ緊張していた。それに対して美舞は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「は・・・あ・・・?」
「ですから、貴女のお宅へ・・・。」
「あの・・・、話が見えないんだけど。」
「土方君、もうちょっと詳しく話してくれないかな?」
日菜子は横から入って二人を落ち着かせた。そして、三人で公園にあるベンチに腰掛けた。そうしてから改めて玲は二人に話始めた。
「私は貴女のご両親にお会いするためにこの学園に入学したのです。」
「僕の両親?」
「ええ。私の父親は昔、傭兵をやっていて、貴女のお父様と仲が良かったそうです。父は昨年他界しましたが、遺言に貴女のご両親にお会いするようにと言われたのです。」
「そう・・・。」
「それで私は徳川学園に入学し、生徒名簿を調べて、三浦美舞という名を捜し出しました。貴女が男子空手部に所属していると知って、貴女と知り合いになる手っ取り早い方法、つまり空手部に入部したという訳です。」
玲は話終えるとふぅと溜息をついた。元々、口数の多い方ではないのである。相手が初対面という事も多少影響している。美舞も日菜子も玲の様子がまともそうに見えたので取り敢えず信じる事にした。玲は表情が穏やかで人当たりが良い。初対面の人にも安心させる雰囲気を持っている。
「じゃあ、家に寄って行ってよ。」
「ありがとうございます。」
二人は日菜子と別れた後、美舞の家へと歩いて行った。
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美舞は日菜子と共に歩いて帰宅していた。二人の家は意外と近いので、よく一緒に帰る。日菜子のガードも兼ねて。
「ねえ、美舞は誰に目をつけているの?」
にやにやの日菜子。
「目をつけるって・・・ねぇ・・・。」
「別に変な意味じゃなくってね。美舞から見て期待できる子っていた?」
「そうだな・・・。女子はやっぱり日下部涼って子かな。いい蹴り持っていたし、スピードも十分ね。基本ができているから伸びるよ。男子は土方玲って子かな?男子は実力が拮抗していて誰って言うのは難しいけど、土方君が二歩ほどリードかな。」
「何?二歩って・・・」
又、日菜子は口をとんがらがせている。
「それはね、土方君は・・・。」
「呼びました?」
突然、二人の背後から声がした。二人が振り向くとそこに土方玲が立っていた。微笑みを浮かべながら。
「びっくりしたなあ。いるなんて気付かなかったわ。」
日菜子は本当に驚いた様である。それに対して、美舞は無言である。それを玲は微笑みつつも見つめている。
「それで先程の事なんですが・・・。」
「?」
「二歩の事ですよ。ほかの奴らより二歩って・・・。」
「あれの一つは今の君の行動からも分かる。動きにそつがない。僕の後ろに気配を感じさせずに立ち得た人は一握りしかいないよ。もう一つは・・・。」
「もう一つは?」
「君には他の人にない、力を感じる。」
美舞は目に力を入れた。
「力?」
玲は先程迄の微笑みを消し、真面目な表情になった。図星をつかれたと顔に書いてある。
「鋭いですねぇ。驚きました、正直言って。」
今度は美舞が微笑む番だった。美舞には同じ匂いを持つ人間が此処にもいた事が嬉しくもあり意外でもあった。
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第8章 突然の玲
大会は順当に進んで行って、男子の部には二人、女子の部には三人、混合には六人、新入生が残った。
注目すべきは混合の六人で、名前は月代夕矢、火野光輝、水城猛威、木田洋次、金山柔一、土方玲という。彼らは皆、先輩たちを相手に危なげなく闘い抜き、ベスト十六に入った。
特に土方玲は相手に指一本触れさせる事なく倒して来た。
その他の五人も怪我ひとつなく勝ち上がったのだから期待されて十分だ。後に女子部の日下部涼を加えて、徳川七人衆と呼ばれる事になるがそれは別の話となる。
兎に角、翌日の決勝大会を控えて、残った計四十八人はそれぞれ帰路についた。
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第7章 熱い大会
第一体育館は超満員だった。
これでも空手部は格闘技ブームのせいもあってか人気は良い。
空手部では観戦料として幾らかの料金を徴収して部費の足しにしている。
体育館には四つのステージが在り、その上は畳敷きになっている。それはこの大会のルールとして投げ、間接技も認めており、空手家と雖も板間に投げられればきついからである。ステージは十メートル四方で、端には白線が引いてある。この白線から故意に出たら場外負けとなる。もし、不意に出てしまった時は一本扱いとなる。
基本的には凶器攻撃、噛み付き、急所攻撃は反則、二本先取のフルコンタクト制である。
審判は空手部の三年が務めるので心配はない。男子の部、女子の部、混合と在り、基本的には体重制限はない。これは実戦において相手の体重が選べる筈がないからである。
以上のルールで空手部の新入生歓迎大会は行われる事となった。
大会開始は入学式終了後、三十分経過した二時からで先ずは予選が開かれる。此処で残った各十六人が翌日の決勝へ進める。予選参加者は新入生が男子の部十三人、女子の部七人、混合十五人(男子のみ)、空手部員は男子の部二十人、女子の部は十三人、混合は二十七人(女子一人)で、計男子の部三十三人、女子の部二十人、混合は四十二人(女子一人)である。
注目はやはり混合で毎年此処では壮絶な闘いが繰り広げられ、必ず病院送りが出るという余りにも危険な、しかし、興奮する大会なのである。この事について学校側は生徒自身の責任において行う事としか述べていない。当然、治療するのも学生なのだから、学校の方針に背いてはいない。
兎に角、徳川学園の熱い半日は始まろうとしていた。
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「守られたいから?ひなちゃん。」
「そうね。私の前で無様な格好を見せなければ良いわ。喧嘩に弱くても、何物にも負けない気持ちを見せられれば、強いって事だと思うのよ、私は。」
「うん。幾らやられても立ち上がろうとする。そういうところを見せられる人だったら、喧嘩に弱くても良いよね。」
わくわくとして答えた。それも毅さであると思ったからであった。
「へえ、美舞もそんな風に考えてたんだ。」
日菜子には意外だった。
「そうだよ。」
こちらも意外の美舞。
「じゃあ、新入生の中からそんな人が出て来るといいね。」
「うん。」
冷や汗の美舞を日菜子は見つめていた。
こうしてみると美舞も普通の女の子である。友達とボーイフレンドの話もするし、芸能人の話もする。プリクラもするし、携帯も持っている。それでも美舞の特殊さは群を抜いていたが。
入学式当日、校庭はクラブ勧誘で賑やかになる。文化部、運動部、応援団、様々なクラブが新入生を獲得するために躍起になる。
美舞の所属する空手部は新入生歓迎大会と銘打って大会が開かれる事になっている。それは新入部員と空手部員がトーナメント方式で闘って、その実力を測ると共に先輩としての威厳を示す目的がある。先年は美舞が優勝したがそれは余りにも特殊で、普通は先輩側が優勝するのである。
「よーし、今年は少し遊ばせてもらおうかな。」
手を組んで伸びをした。
「いいの?そんな事言って、美舞。」
「そうね、まあ、僕が本気を出してやろうと思う人は居ないと思うな。」
美舞はおどけて言った。事実、今の空手部には美舞より強いものが居ない。去年は三年生に何人か美舞を満足させる人がいたが、それも卒業と共に居なくなってしまった。現在の二年にも三年にも美舞と闘える人はいないのである。
「そうか・・・。まあ、お手柔らかにね・・・。」
日菜子は心配して言った。
二人は二三言話した後、第一体育館へ入った。此処で新入生歓迎大会が開かれるのである。
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「だってさ、僕って、女なのに男子空手部員だし、小柄だし、弱そうだし、型破りだし・・・。」
何かぶちぶちと言う美舞に日菜子が続いた。
「それで?」
美舞のこうした面も日菜子は知っていた。
「だから・・・。」
未だ、ぶちぶちと言っている。
「大丈夫よ。美舞はそういう面を実力でカバーして来たんだから。馬鹿にする奴には一撃食らわせば良いのよ。そうすれば、女の子だって事も、型破りなとこも、小柄っていうとこも全部認めざるを得なくなるんだから。」
手をパーにして美舞の背中は叩かれた。
「ひなちゃんって、結構過激な所あったんだね。」
あんぐりとした。
「意外?」
日菜子の口をとんがらせるおどけ方。
「まあね。だって、ひなちゃんは“守ってあげたい女の子ナンバー1”だもの。僕なんか“守られたい女の子ナンバー1”だもの。あはは・・・。」
乾いた笑いを重ねた。
「それって、自慢?それとも卑下してるの?」
日菜子は優しく訊いた。
「半分自慢で半分卑下かな。可愛いって言われるのは嬉しいんだけど・・・。」
美舞は小さいのでよく頭を撫でられる。日菜子にも又くしゃくしゃとやられてしまった。
「守られたい?」
念の為訊いた。
「まさかぁ。自分より弱い男には興味ないよ。僕が好きになるとしたら、僕より強い男じゃなくちゃ。」
至極の事である。
「美舞より強い男の子なんてなかなかいないと思うけどな。」
それも又至極であると思われた。
「だからこそ、いい男だと思うよ。」
ぐっと美舞が力を入れた。
「そうかしらねえ。まあ、私も強い男の子の方が好きだなあ。」
さらりと日菜子も言ったが、美舞の言う強い男が、毅さも兼ね備えていると言う意味であるとは思わなかった。
暫く間があった。
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第6章 学園のアイドル
美舞が徳川学園に入学してから一年経過した。美舞も無事に進級し、二年になる。
余談だが、徳川学園の進級テストは所属するクラブやアルバイト先とかで優秀な成績を示すとか、目立った事をするとか、兎に角、進級を決定する教師の興味を買えば良いのである。
美舞は高校女子空手大会で優勝し日本一になったので、進級を許された。
そして、空手部には新入生が入り、美舞も上級生として一年生の指導をして行かなくてはいけなくなった。美舞は今迄人に教えた事などなかった。幾ら強くても一年生なのだから、一緒に練習する事はあっても、だれかに指導する事はなかったのだ。
元々、美舞の闘い方は親から習った我流で、人に教えられたものでもないし、今迄基本の型の練習さえやっていない。だから、美舞はなんとなく不安を感じている。新入生に馬鹿にされないか、と。
後日、それは杞憂だと分かるのだが、この時の美舞にとっては重要な問題だった。
「ねえ、ひなちゃん。僕、一年生になめられないかなぁ。」
「何で?」
美舞に“ひなちゃん”と呼ばれた子は答えた。ちなみにこの“ひなちゃん”は芳川日菜子といい、美舞と仲が良い、男子空手部のマネージャーで守ってあげたいタイプの美少女だ。美舞と二人で“徳川学園のアイドル”と言われている。
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「しかし・・・、この強さは桁外れとしか言いようがないな。」
松井が顎に手を当てて言った。
「ええ。」
歓喜の声で頷く加藤。
「日本の女子空手界では敵なしだろうな。それでも、女子部に行く事など考えず、ただ強い人と闘いたいという一点だけで・・・。」
松井は嬉しいばかりである。
「うちに入る事を考えたなんて、面白い奴ですね。」
美舞の可愛いらしい風貌が余計に加藤のみならず皆にそうさせていた。
「ああ。しかし、あの子がうちに入ってくれたお陰で、ほかの部員のレベルが上がるだろうな・・・。」
流石部長の観点である。
「楽しみですねえ。」
格闘家としての加藤も負けない。
「何が?」
松井はひょいと思った。
「あの子がどこ迄強くなるかです。」
闘ったからこそ盛り上がって加藤が答えた。
「そうだな。それを俺たちが見守る・・・か。」
松井は部長として、こうなったら空手の本懐を学んで欲しい等色々と頭を捻らせていた。
「ええ。」
加藤は大きく頷いた。
美舞がはしゃぐ姿を見ながら、松井と加藤は真剣且つ楽しげな表情で話し込んでいた。この二人はこれからの美舞が乗り越えなければならない試練の数々を知らないのであった。
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「へえ、君のご両親は何をやっているんだい。」
加藤は柔道等の格闘家かと思っていた。
「今はただのおじさんとおばさんだけど、昔、戦争に参加していたって。」
けろっと美舞は言った。
「戦争?まさか第二次世界大戦じゃあ・・・。」
加藤にはびっくりな話であった。
「無いよ。僕の両親まだ三十代だもの。何の戦争かは分からないけど、確か・・・傭兵とか言ってたなあ。」
「そうか、その中でも強い方か・・・。」
「うん。お世辞じゃなく、本当に強いよ。」
美舞は真剣な顔をし、両拳を握って言った。加藤はその姿を見て微笑みを浮かべ、それを見た美舞も加藤に微笑み返す。そして、二人は改めて握手を交わし、お互いの健闘を讃えた。ほかの空手部員も二人の闘いぶりに闘う事の面白さを再確認した。
「松井さん・・・。」
加藤は松井に向かい一言言った。松井の方も加藤が言わんとしている事を諒承し、美舞に対して言った。
「参ったよ。君の入部を認めよう。君ほどの使い手ならうちでもついて行けるだろう。まあ、女子部じゃ物足りなく感じるだろうから、うちでやる事を薦めよう。」
「わあ。やったあ。ありがとう、松井さん。加藤さん。」
美舞は16歳の少女に戻り、思いっきりはしゃいだ。先程迄の険しさは全く感じられない。それどころか一目見ただけでは、この少女が大男と対等に闘えるとは分からないだろう。
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「うぅおおおおおお・・・・。」
加藤の左正拳が美舞の顔面めがけて唸った。それはまるで大砲の砲丸の様な一撃だった。その一撃は美舞の可愛い顔を打ち砕くかと思われた。
しかし、それは美舞の手痛い報復で応酬された。美舞は左腕で加藤の正拳を受け流すと同時に右上段回し蹴りを放ったのである。それは加藤の左側頭部をカウンター気味に蹴り抜いた。加藤はその反動で右へ吹き飛ばされてうつ伏せに倒れ、暫く目を覚まさなかった。
「あっ、加藤さん・・・、大丈夫?」
美舞はゆっくり起き上がる加藤に心配の目を向けた。加藤の方はと言えば、左後頭部の辺りを左手でさすって美舞の顔を見た。美舞は加藤がどうやら無事そうなのを確認してほっとし、右手を差し出し加藤を起こそうとした。加藤は黙って美舞の右手を握り、美舞の引く力に任せて立ち上がった。そして美舞を改めて見つめ直しゆっくり話し出した。
「まいったよ。君がそこ迄強いなんてなあ。今迄女には負ける筈はないと思っていたが世界は広いな。ましてや男勝りの大女じゃなく、こんなに可愛い小さな女になんて・・・。」
「加藤さんは今迄闘った人の中では強い方だよ。僕の両親は元々凄く強いし、その友人にしても同業者だからとてつもなく強かったもの。その中でもかなりの強さだから自信持っていいんだ。」
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美舞は改めて構えた。先程からの構えとは違う、心持ち後ろに重心を置いた構えだ。加藤はそれに対して正面を向いて右拳を引いている。
「じゃあ・・・、行くよ。」
美舞はそう言うと左上段回し蹴りを加藤の右顔面に向けて繰り出した。加藤はそれを辛うじてブロックしたが、ブロックごと弾かれて左後方につんのめった。加藤はすぐさま体勢を立て直したが、美舞が続けて繰り出した跳び右後ろ回し蹴りをまともに顔面に食らった。美舞は体勢を崩した加藤の左顔面に右正拳を打ち込んだ。美舞の拳は加藤の頬を歪め、口の中を傷だらけにし、右後方へ仰向けに倒した。加藤は口の中に血の味を感じたが、それによって益々、闘争本能を擽られるのを感じた。
「ふふっ。」
加藤は笑うと勢いよく立ち上がり、左拳を引いて構えた。先程迄の防御を目的とした構えではなく、空手の本懐である“一撃必殺”を目指した構えであった。美舞は一瞬、背筋に冷たいものが伝うのを感じたが、それも一種の高揚感であることを知っていた。美舞の方は左肩を加藤の方に向け、重心を右足に置き、左手は地面に垂直に、右手は脇に添えて構えた。加藤は次の一撃に全神経を傾け、美舞にも躱せぬ攻撃をすると教える様な構えをし、それに対して美舞も受けてたっている。どちらも次の瞬間に決着を見ている。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
二人の緊張は傍からも感じられる程で、どちらも気が満ちて来ている。どちらかの気が揺らいだ時動く筈だった。数十秒後、美舞の頬を伝っていた汗が顎から地面に落ちた。次の瞬間、加藤が吠えた。
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「やあっ。」
掛け声と共に美舞は加藤の左脇腹に右フックを打ち込んだ。鈍い音と共に加藤の脇腹はへこんだが、加藤は何食わぬ顔で立っている。
「その体の割りには効くパンチを持ってるな。だが、それじゃあ俺を倒す事は出来ないぞ。」
加藤はそう言うと、右正拳を繰り出した。美舞はそれを躱し、左正拳を繰り出した。加藤はそれを右肘でブロックした。美舞はすぐさま左中段回し蹴りを繰り出し、加藤がそれを躱すと、蹴り足を降ろし、それを軸足にして右上段後ろ回し蹴りを繰り出した。それは加藤にヒットしたが、普通は顔面に当たる筈のものがこの二人だと脇辺りに当たる。加藤は一瞬顔を歪めたが、すぐ真剣な顔をし、構え直した。
「加藤さん、強いね。」
「ああ、まあな。これでも全国でも十指に入るぞ。」
「ふーん、じゃあ本気・・・出すよ。」
美舞はそう言うと、いきなり加藤の懐に入り込み、右正拳を腹部に打ち込んだ。そしてすぐさま右下段蹴りを打ち込み、その蹴り足を軸に左上段跳び後ろ回し蹴りを打ち込んだ。その全てが加藤の腹部・左足・顔面にヒットした。その次の瞬間、加藤は右膝をついた。
「ぐ・・・う・・・。」
加藤は唸りながらも立ち上がり、構え直すと呼吸を整えた。そして、徐に左正拳を繰り出し、続けざまに右正拳を繰り出した。美舞がそれをブロックすると、続けて右中段回し蹴りを繰り出し、美舞のブロックごとふっ飛ばした。美舞はうまく着地したが、加藤の攻撃が効いたのか暫くその場に留まっていた。幾らブロックしたとは言え、体重が三倍近くもある男の攻撃を三度も受けたのだからただ事じゃすまない。
「へへ・・・。」
美舞は舒して笑い出した。微かに俯いた顔を上げた。
「ん?頭でも打ったのか?」
「ううん。嬉しくって。」
こんな可愛い少女がと言った感じの満面の笑顔である。
「嬉しい?」
加藤は不思議に思って訊いた。
「うん、今迄両親以外の人と闘った事が無くって。いろんな人と闘えるのが嬉しいんだ。それも加藤さんの様な強い人と・・・。だから、此処は勝たなきゃね。」
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「いいえ、是非此処でやりたいんです。」
男は少し考えた後、提案した。
「それならこうしよう。部員の一人と組み手をしてみてから考えよう。」
「良いですよ。誰ですか相手は。」
美舞がそう言うと男は一人の男に手招きをした。その男は部員の中でも大きな方で見た目190cmは優にあった。
「いいんですか、松井さん。」
「ああ、真面目にやってやれ、加藤。身の程を知れば諦めるだろう。」
松井と呼ばれた男は加藤に向かってそう言った。加藤の方は少し心配をしているがそれでも松井の言い分を認めたのか、美舞の前に立ち礼をした。
「君には恨みはないが、君の為だ。大怪我する前に一度自分の立場を知っておいた方が良い。」
「その言葉、忘れないでよ、加藤さん。」
美舞はそう言うと、静かに礼をし構えた。その構えは、右半身を前に出し、少し腰を下げ、右手は口の辺りに、左手は胸の辺りに置いてあるものだ。両手には指無しの革手袋が謎めいてはめてあった。
一方、加藤の方は足を肩幅に広げ、心持ち左半身が出ていた。更に両手は顎の前に軽く握って置いていた。
美舞はスピードを生かした攻撃型の、加藤は守りの型である。しかし、加藤はその巨体で美舞を威圧し無言の攻めをしていた。少しずつではあるが美舞は退がって行った。
対峙してから一分ほどして、突然、美舞は動いた。
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第5章 空手部の門戸
入学式当日、美舞は空手部の門を叩いた。
徳川学園空手部は男子も女子もかなりのレベルで高校総体で全国制覇する事数度にも及ぶ。卒業生にはオリンピックに出たり、プロレスラーになったり、有名になる者も数多い。
その空手部には200cm、100kgの大男等珍しくなかった。美舞は133cm、35kgだから、まるで小人のようである。その美舞が道場に入って行った時、空手部員の顔は見物だった。
「すいませーん。1年D組三浦美舞、入部希望します。」
美舞の場違いな可愛い声は今迄騒がしかった道場を静寂の場に変えてしまった。なにしろ、身長がかなり低く、非力そうな女の子が道場の入り口で驚くべき言葉を発したのだから無理もない。
「あのー、どうかしました?」
美舞はきょとんとして、近場にいた一人の男に聞いた。その男は美舞の言葉で正気を取り戻したのか、唐突に笑い出した。その男の笑い声を皮切りに道場中が笑い声に包まれた。それを美舞は不思議そうに見ながら暫くじっとしていたが、どうやら収まる気配がないので、先程の笑い始めの男に話しかけた。
「なにが・・・おかしいんですか?」
男は笑い疲れたのか、暫く呼吸が整わなかったが、笑いが収まると美舞に話しかけた。
「君が・・・、うちに・・・、入部・・・、するのかい?」
「はい。」
美舞は元気に話した。
「でも、此処は男子空手部だよ。」
苦笑いされた。
「ええ、知ってます。駄目なんですか?」
男は美舞の真剣な眼差しと、真摯な物言いに思わず真面目な顔になった。
「いや、駄目って事はないさ。徳川学園は老若男女問わずがモットーだからね。それはうちにも言える事だから。」
「それなら・・・。」
と言いかけると。
「だが、見ての通り此処は君とは体格が違い過ぎる男しかいない。君の身の為にも女子部に行った方が良いと思うんだが。」
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美舞もこの学園で何かやってみたくて入学した。取り敢えずは自分の護身術で空手部にでも潜り込もうと思っている。徳川学園空手部は高校空手界のみならず、実戦空手界でも屈指の強者揃いである。
美舞は自分の実力を試してみたかった。今迄は両親が稽古相手で、両親以外と闘った事がなかった。だから、自分はどれくらい強いのか分からなかった。第一、両親は護身術として教えてくれたのであって、大会に出るために教えてくれた訳ではなかった。今迄も何度か両親に大会に出る事を許可して貰おうとしたが、未熟さを指摘され、許されなかった。
しかし、この学園に合格した時、思い切って学園の空手部に入りたい事を話してみると、両親は条件付きで承諾した。その条件とは、護身術と一緒に教わった技は使わないという事だった。その技は、普通の人には出来ない事だから他人には見せてはいけないという事だった。昔一度、面白半分に使った事があったが、その被害は散々たるものだった。
それ以来、その力の絶大さを認識しつつ習練して来た。いずれ使う時も来るだろうから、それ迄は技に磨きをかけるのが筋だと思っていた。
兎に角、美舞はこの学園で新たな一歩を踏み出す事になった。
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第4章 学園での一歩
三浦美舞は既に十六歳。高校一年生である。
美舞の入学した徳川学園は変わった学校で、入学試験が学術試験ではない。では何かというと、面接においてその特技を披露し、それが認められれば合格という何とも風変わりなのである。
美舞はこの時、両親から習った護身術を披露した。もう一つ、特技があるのだが、それは人に見せてはいけないときつく言い渡されている。兎に角、美舞はあっさりと入学を許され、新しい生活をスタートさせた。
徳川学園は希望すれば寮もあり大きな学園都市に学校や図書館や美術館など色々な施設がある。言わば、ひとつの町みたいになっている。
そこでは、普通の高校ではあり得ない高校生の弁護士とか警察官、教師や医者等、色々な職業に高校生が就いている。当然、法に触れない部分だけであるが、れっきとした仕事として相応の給料をもらっているが、これはそれぞれの分野で卓越した才能を持つ者に早い内から習練する機会を与え、優れた職業人をつくる事を目的としている。また、一般に認められていない職業、例えばスパイとか特殊工作員とか忍者みたいなものでも、その才能ありと認められた時は学園から多大な援助を受けられる。
これ程風変わりな学校は世界広しと言えどもこの徳川学園しかない。
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第3章 愛の結晶
マリアとウルフは戦場を離れた後、日本に越して来た。そして、ウルフは日本国籍を得て“三浦司狼”という名前になり、真理亜と一緒に住み始めた。ウルフにとって日本は住み易い所だった。当然、マリアにとっては生まれ故郷だから問題はない。それに日本は他の国に比べても、危険が少なく治安も良く、出来るだけ争い事を避けたい二人には都合が良かった。その事もあって日本に移住する事にしたのだ。
二人は半ば恋愛未満で生活を始めた。出会いからして普通じゃないし、出会ってから間もない。かといって、お互いに興味があって傭兵稼業から足を洗ったのだから、暫くの間一緒に住んでお互いの事を良く知らない事にはどうしようもない。だから、二人は同じ家に住み、世間に溶け込む為結婚をした。金銭面は傭兵時代の稼ぎで少なくとも三十年は暮らせるが、ウルフが小さい診療所を開いて多少の収入を得られるようにした。そうする事で、周りにも不信感を与えずに済む。こうして二人は平和な日本で、平和な人生を歩む事にした。
それから数年後、二人に子供が生まれる事になる。名前を美舞という。
美舞は両親に似て美人になるだろうと思われた。事実、十数年後には結構もてるようになる。
それはさておき、美舞の左手に五芒星の、右手に逆五芒星の痣があり、それはまさしく二人の血を引く証明であった。この事が、美舞を苛酷な?運命に巻き込んで行くのである。
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「わかったわ。しばらく貴方の側にいてみようと思う。私も貴方の強さに興味があるし、それに貴方の・・・。」
「?」
「いえ、何でもないわ。貴方には見事に負けたもの・・・。私は今迄貴方ほどの男に会った事がないの。私は貴方に負けて一度死んだのよ。私は傭兵をやめるから貴方もやめてくれないかしら。それだけの価値があると思うけど。」
ウルフはマリアの言葉に驚き、暫く考え込んだ挙句、承諾の意を表した。
それから一週間後、二人は戦場から消えた。
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「君の美しさに惚れてしまった。君がもし元のところに帰りたいというのならそうしてもいい。でも、君が俺の気持ちに応えてくれるなら、此処にいてくれないか?」
ウルフは顔を真っ赤にして言った。いや、顔どころか耳も手も、肌が露出しているところ全て真っ赤にしながらである。今迄彼女の外見に惑わされ口説いて来た男はそれこそ山のようにいたが、敵に、しかも闘った男に告白された事などなかった。何故なら、マリアと一対一で闘った男は、女もだが、全て地獄の門をくぐっているからである。ウルフだけがマリアに勝った唯一の男であった。
マリアは自分の運命の数奇さに笑わずにはいられなかった。
その笑いはウルフには嘲笑にとれたのか、不機嫌そうな顔になった。
マリアはウルフの顔をじっくり眺めてみた。闘っている時は顔などよく見ている余裕などなかった。第一、そんな事をする必要もなかった。闘いに負けたら死んでしまうのだから。結局、マリアはウルフに負けたが死ねず、敵に告白をされる事になったのだから人生どう転ぶか分かったものではない。
ウルフは見事な銀髪を後ろに結び、白い戦闘服を着ていてマリアとは正反対に目立つ格好をしている。
マリアにしろウルフにしろ、戦場で目立つ格好をしているのは自分の能力に自信があるからで、「俺を(私を)斃せると思うならかかって来い」という挑発をしているからに他ならない。よく見るとウルフは美形の部類に入るのではないかとマリアは思った。
ウルフの眼は透き通るように薄い緑色であった。「綺麗だな・・・」と、マリアは思った。とても傭兵の、人殺しの眼ではない。じっくり見ている内に目の前の男に多少なりとも興味を持つ自分に気が付いた。マリアは暫く考え込んでいたがふっと顔をあげ、ウルフの緑の瞳を見つめた。
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「ねえ・・・。どうして・・・。」
マリアが口を開いた瞬間、ウルフの顔が緊張した様に見えたが、それは一瞬のものだった。ウルフはすぐ先程の穏やかな表情に戻り、ゆっくり口を開いた。
「君が不思議がるのはよく分かる。君は我々の敵だし、仇でもある。でも、俺はその事よりも君の・・・。」
「君の・・・?」
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第2章 熾烈な愛
マリアは目を覚ました。見た事のない風景に見た事のない男。その隣に先程迄闘っていた“白銀のウルフ”が静かに見つめていた。
「つっ・・・。」
マリアは起き上がろうとしたが体に力が入らなかった。所々体が痛む。
「マリア・・・、無理をするな。君は今、動ける状態じゃない。覚えていないだろうが、君は力を暴走させたんだ。力の事は後々教えるとして、今は養生する事だね。」
ウルフは優しい顔をして子供を諭すように言った。とても敵に対する態度ではない。
見知らぬ男はウルフに一言二言言葉をかけるとウルフは「すまんね」と苦笑を浮かべて右手を挙げた。男はそれに対して親指を立てて応じ、テントから出て行った。そしてテントにはマリアとウルフだけが残る事になった。
マリアはウルフに対しても死ぬ事に対しても恐怖感はなかった。今迄いくつもの戦場を駆け抜けて来た、兵のみが持てる一種の錯覚のようなものであった。それでもその錯覚のお陰で何度も修羅場をくぐり抜けて来た。「多分、ウルフも私と同類だろうな」と、マリアは思った。これも一種の「感」と言うもので、特に理由を説明出来るものではない。
兎に角マリアはウルフの前では、緊張と尊敬と敬愛の複雑な感情に支配された。
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マリアの言葉と同時に二人は身構えた。マリアは右足を踏み出し、右手を顔の下に構え、左手を胸の辺りに置いた。ウルフはマリアの構えを鏡に映した様に左側を前に出している。二人とも素手だ。体の何処にも武器をつけていない。唯一、マリアは左手に、ウルフは右手に革手袋をつけている。
ガッ
二人は同時に地を蹴った。先ずマリアがウルフの腹部に拳をふるった。ウルフはそれを難無く右手で払い、払いつつも左手で脇腹を殴った。流石に擦っただけではあったが今迄何人にも触れさせた事がなかった体に触れられて、マリアはカッとなった。
「・・・くっ。」
マリアは今迄にない屈辱感を味わっていた。自分の攻撃は当たらないのに、相手の攻撃が当たってしまう。それは今迄の敵には決してあり得ない事だった。そしてマリアが焦れば焦るほどマリアの攻撃は当たらない。ウルフの方はというと、余裕綽々という表現がぴったり来るほど難無く闘っている。
「どうした、それが“漆黒のマリア”の闘い方かい?」
ウルフは右手でマリアの左手を掴み、背負い投げのような感じで投げた。マリアは受け身もまともに取れず、背中を強かに打った。
「ぐぅ。」
マリアは背中の痛みよりも自分の脆さが悲しかった。闘いの事よりも精神の脆さに。今迄数々の修羅場をくぐり抜けて来た筈の自分の存在意義は目の前の男によって無に帰されようとしている。
「負けるもんか・・・。ま・け・る・も・ん・か・・・。」
マリアの目には子供が喧嘩に負けそうになってそれを覆そうとする、ある意味で純粋な欲望が宿っていた。
「負けるもんかー。」
マリアがそう叫んだ瞬間、マリアの左手から光の塊が放たれた。ウルフはそれを見て一瞬驚いたが落ち着いて右手に気を集中すると光の玉を受け止めた。
マリアはそれっきり呆然自失と言っていい状態でフッと倒れた。
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「・・・。判っていたなら、どうして阻止しなかったのよ。貴方の雇い主がやられるのを黙って見ていたわけ?」
「たった一人の人間にやられるような奴らに雇われたつもりはない。俺は奴らの力量を試しただけだ。もし、俺が此処じゃなくあそこにいたら、君の仕事もああは行かなかっただろうね。」
ウルフは挑発してみた。マリアはどうやら負けん気が強そうだし、ウルフとしてもマリアの手の内を見てみたかった。
「成功しなかったって事かしら。」
苛立たされているマリア。
「いや。苦労しただろうって事だよ。」
厭味でもなく返すウルフ。
「そうかしら・・・ね。」
マリアが先に焦って来た。こうなると闘いは厳しい。
「納得行かないなら、試してみるかい?」
ウルフはマリアが挑発に乗ったと思った。
「望むところよ。任務も完了したし、貴方の化けの皮を剥がすのも面白そうね。」
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シュッ
再び何かが空を切る音が聞こえた。ウルフは態勢を崩しながらも、その音の正体を見た。黒髪で黒い戦闘服を着た美しい女性。武器をもっている様子も無く左手には黒い革手袋がはめてあった。
「美しい・・・。」
ウルフは思わず呟いた。そうせずにはいられなかった。戦場に舞う漆黒の天使。ウルフは生まれてから今迄これ程美しい女性を見た事がなかった。すぐウルフの脳裏に一つの名前が浮かんで来た。
「漆黒のマリア・・・か・・・。」
この言葉は質問ではなく確認であった。ゲリラにいる優れた傭兵。女性とは聞いていたがこれ程美しいとは思いもよらなかった。
「白銀のウルフよね・・・こんばんは・・・って言ったらいいのかしら。」
マリアは微笑んだ。その微笑みは天使のようでいて、悪魔のようでいて、見るものを魅きつける。
ウルフはその微笑みに見とれつつもゆっくり話しかけた。「君の噂は聞き及んでいる。噂以上の仕事ぶりだね。」
「お褒めにあずかり光栄ね。貴方の噂は私も聞いているわ。でも、噂ってあてにならないわね。」
「どうして?」
「此処に侵入する時、貴方の側を通ったのよ。でも気付かなかったみたいね。やっぱり引退して感覚が鈍ったのかしら。」
左の革手袋を直した。
「気付いていたよ。とは言っても、君だとは判らなかったけれどね。」
ウルフの淡々とした口調にマリアは驚いた。
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この二人が戦場で出会ったのは、七月八日の午前十二時ジャスト、ウルフが所属している軍の基地だった。ウルフは何となく近くの森の中を歩いていた。不思議と眠気が無くこういう時に限って何かが起こるのを、今迄何度も経験していた。夜中にしては月明かりが明るく、くっきりと影が出来る位であった。こうした時は夜襲に向かないが、それを逆手に取る事も可能であった。
現在の戦況は自軍に有利であったが、たった一度の戦闘が戦況を完全に覆してしまった例は数多くあり、ゲリラ側に“漆黒のマリア”がいる以上、夜襲を警戒するに越した事はない筈だった。この時マリアは単独で行動しているが、この手の夜襲はどちらかというと人数より速さと正確さを重視しなければならず、人数の多さが正確さを欠く事に繋がる事を考えると、この行動は間違っていない。ウルフは暫く散歩して帰ろうとした矢先、基地の方向が炎上しているのが見えた。ウルフはすぐに夜襲を受けた事を悟って帰ろうとしたが、自分の背後に人の気配を感じた。
シュッ
何かが空を切る音が聞こえる。ウルフは咄嗟に躱したが、躱せたかどうか分からなかった。しかし、体の何処にも痛みを感じず、何かが動く気配を感じたので、ウルフはすぐさま戦闘体制をとった。大きな樹を背にし、腰を落として敵の出方を待った。敵の方も隙を見い出せない為か動かない。こうなると持久戦になりかねない。ウルフとしては早急にけりをつけなくてはならず、その焦りが隙をつくった。その瞬間、敵がいきなり仕掛けて来た。
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第1章 二人の傭兵
戦場に兵(つわもの)は幾らでもいる。正規の軍人に限らず、傭兵にも数多くの兵は存在する。その中でも一際光る二人の傭兵の話をしよう。
一人は“漆黒のマリア”と呼ばれる凄腕の女傭兵である。長い黒髪、吸い込まれそうな黒い瞳、均整のとれた体に黒い戦闘服。これが、木下真理亜が“漆黒のマリア”と呼ばれる所以である。これ迄実に四桁にも及ぼうかという数の敵兵を斃して来た。マリアの優れた所は夜戦にあり、黒い戦闘服で暗闇に紛れ、素早い動きで敵に接近し斃す所にある。マリアの武器は誰にも知られていない。それはマリアと闘う事になった兵士が必ず斃されるからで、マリアの斃した兵士の体には明らかに何かで切られた様な跡がある以外には何の痕跡も残っていない。この事でマリアは戦場で常に有利に闘えるのである。
一方、“白銀のウルフ”と呼ばれるウォルフガング=アルベルト=ミュラーは、長く見事な銀髪、透き通るような緑の目、穏やかな物腰。異名からは程遠い、とても兵士には見えない男である。戦場では何でもこなすオールマイティな働きをしたが、ある日を境に闘う事を止め、軍医になった。元々、医師免許を持っていた為、軍医としても目覚ましい活躍をしていた。
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「醒なる美舞」序
神秘の力を持つ傭兵二人。彼らには秘密の痣がある。左手の五芒星は漆黒のマリア。右手の逆五芒星が白銀のウルフ。その両親から生まれた美舞は両の手に神なる力を携える。美舞を巻き込む過酷な運命とは!?何に覚醒する…?恋愛!SF!学園!格闘!長編です。
さくさく読めます。
美少女アルバムシリーズ第3弾。
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-目次-
小説「醒なる美舞」
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-目次-
小説「SIXTEEN☆結婚物語」
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「SIXTEEN☆結婚物語」後記
-『SIXTEEN☆結婚物語』と私生活-
オリジナル恋愛小説「SIXTEEN☆結婚物語」の作者しいなゆうひによる独断的な作品解説です。
「SIXTEEN☆結婚物語」に登場する二人、相川 美歩那(旧姓は香坂)と相川 智樹にはモデルがいます。私の実体験に基づく所のあるお話なのです。
この作品は、私の結婚迄のエピソードと重なる所があります。勿論、モデルとカメラマンなどとは違い、華やかさなどとは程遠いです。私は、夫と大学生の時に初恋のひとめ惚れをし、大学院生の時に学生結婚をしました。ひとめ惚れ同士は上手く行かないと言われる事がありますが、長年、説教夫婦喧嘩をして泣く事はあっても離婚する事なく、今に至っています。私は、病気で大学院を休学をしましたが、その事も引き金となって、夫が結婚を決定的なものとしてくれました。しかし、様々な困難を抱え、私が寝込んでいると言う事が決定打となり、入籍だけの結婚となりました。
これがこの作品の下地になっています。美歩那も智樹も二人ともひとめ惚れで、美歩那は学生結婚でしたし、様々な理由で結婚式を挙げられなかったと言う事で揉めました。この事実が私の体験と幾分か共通しています。そんなところに、もし、美歩那がモデルで智樹がカメラマンならばと言う世界を設けてみました。現実からは掛け離れた一種の逃避でもありますし、甘い世界を描けたら素敵だろうと思って設定しました。甘美なシーンも14章で表現されています。読者が新婚さん気分になって戴けないかと思って書きましたので、自分でもくすぐったくて仕方が無い位です。ラストは恥ずかしく仕上げてありますので、火傷にご注意下さいと言った感じです。
作品を仕上げて振り返ってみて、私の本来の作風は何処へ行ってしまったのでしょうかと思いました。しかし、結局、こういう側面もあったのだと言う事が自分で発見できる良い一作品となりました。
「SIXTEEN☆結婚物語」は、実は、ある出版社のコミックスの原作用にとに書き下ろしたものなので、コミックスを読む様な雰囲気もあるのかも知れません。文体もかなり軽くなっています。余計な言葉は一切削ってしまっているので、小説としては物足りなく完成度の低いものに感じられるかも知れません。しかし、この作品は、凡その完成を見せたのは平成十四年と少々古いですが、コミックスも描くしいなゆうひにとっては、小説として、処女作と違い、自分なりにプロットなども立てて原稿用紙何枚で書くと決めて書いた初めての計画性のある作品と言えます。
全15章からなっていますが、14章はツーパターンあります。自サイトでは元来の原稿を発表し、投稿倶楽部まよいの森では、手直しをした原稿を発表しました。
自分にとって、勉強となる作品となりました。
此処までお読み下さり誠にありがとうございました。本当に拙い作品ですが、どうぞ、ちいさな愛を見守ってあげて下さい。そして、こんな世界もあるのだと言う事を物語として心の片隅に灯してあげて下さい。
まずは、御礼まで。
***
しいなゆうひ
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15 いつものように
智樹はカメラを構えた。
「じゃあ、今日の記念に写真を撮るよ~!」
「きゃ! まだ服着てないよ~」慌てて胸に脱ぎ散らかした下着を押し当てた。
「ごめんして~、もうジェラシーは焼かないよー」美歩那はツンツンと智樹の頬を叩いた。
智樹が、又叩かれてしまったと笑いを堪えつつ続いた。
「ウソ! もうジェラシーは焼かないって? うううん良いんだよ。そんな美歩那が好きなんだ。これからもよろしく。写真集、『Comme d'habitude』のタイトルは、フランス語で『いつものように』って意味なんだ」
「これからも宜しくお願いします」と二人。
パシャ。
一枚の写真が微笑む。
……ありがとう、智樹……。
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14 ぷらいばしー
何度も何度もkissを繰り返した。
そのままベッドに傾れ込んだ。智樹は優しく愛撫を始めた。
kissをしながら首筋を弄(なぶ)る。そして、手は襟から胸の中へ入って行った。次第に手は下へ伸びて行った。
暫く弄(まさぐ)った後、一番恥ずかしい部分を念入りに何度も舐めてはkissをした。
「綺麗だよ、美歩那」美歩那を静かに濡らして行った。
「あ……。ああん……」美歩那はそれに呼吸を合わせた。
「もっとこうしている?」智樹はワザと意地悪な質問をしてみた。
「イヤ、智樹さん、お願い……」顔を次第に赤らめて行った美歩那。
「何をお願いなの?」意地悪が好きな智樹。
「意地悪……あ、あん。あ、ふう……」段々あえぎ声が高くなって来た。
「入れて……。それ以上言えないよ……あん、あん」やっと、話しをしている感じの美歩那。
「いいの? もう……」その手は秘部から離れなかった。
「早くう……!」もう、堪らなくなってしまった美歩那。今日はいつもより凄いと思った。
「痛くないように、唾付けないとね」又、意地悪に笑ってみせた。
「もう、充分濡れてます」顔を真っ赤にして言った。
「行くよ」ゆるやかに入って来た。
「あ、はあ、あ……。あ、あん、あん。は……。あ……」腰を揺らめかせ二人でkissを繰り返した。
「イくよ、良い?」智樹も堪らなく燃えていた。
「う、うん、私も」それ以上言えなかった。
「あ、良いよ、良いよ……」美歩那は身を捩じらせた。
「一緒にイくよ」智樹もそれ以上話せなかった。
「う、ん……」美歩那は限界に近づいた。
「ああ~ん!」
一緒にイッたのが、又、二人には嬉しかった。
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13 秘密の
智樹は明るく笑ってバッグを持って来た。
「実は、この間からさ、秘密にしていた事があるんだ」
「なあに?」美歩那は涙を拭いながら尋ねる。
「これ……。買ってあげられなかった、マリッジリング。美歩那の気持ちに可哀想な事をしていたから、責めてこれをプレゼントしてあげたくてね……。今日の仕事とかを引き受けたんだよ」一呼吸して目を瞑った。
「お揃いだよ……」
小さな声でコトバを続けた。
「さあ、左手を出して……」
二人で……指輪を……交換した……。
私達、結婚式はできなかったけどこうして愛し合えるねって。
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12 しきりと
二人で遅いお夕飯を食べた。
美歩那は、こみ上げて来るものがあって、泣き出してしまった。
「ふえ~。ふえ~ん……」ヤケクソになってグリーンのクッションをボスボスと叩き始める始末であった。
「ああ~ん……。うっく、ひっく……」
突然、智樹がその口をふさぐ様に優しくkissをした。
「ごめんね、美歩那」優しくて心のこもったコトバだった。
「ごめんね、智樹」反省しきりと言った感じのコトバだった。
「いや、俺が悪いんだから……」美歩那の目を見ながら話す智樹。
「うううん。ジェラシーで一杯だったの。それが恥ずかしくて、恥ずかしくて……」下を向く美歩那。
「それが当たり前の感情だよ。俺だってきっと美歩那と同じ気持ちになると思うよ」ちょっとリラックスして来た智樹。
「ごめんね、智樹」
「ごめんね、美歩那」
二人で見詰め合っている内にぷっと吹き出してしまった。
「美歩那、可愛い! ふふふ」
「なあに? 子供扱いして! あはは」
「俺って甲斐性ないだろ? 経済的にさ。去年の美歩那の方が収入多いんだよ」
食後の珈琲を飲み乍話しを続けた。
「俺はあの頃はまだ自分の絵って言うのができていなくってさ、何を撮っても駄目。美歩那に出逢ってからだよ。そう……写真集、『Comme d'habitude』を作ったろ。グアムへロケとか行って、すげー楽しかった。あれで変われたのかなって感じなんだ」
「そうなんだ……。知らなかったの。ごめんね」唯、唯、聞き入る美歩那。
「今日はさ、ちょっと過激な仕事だったんだ。もうしないよ、美歩那の為にね」ウインクなんかしてみせた。
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11 シチューを焦がして
美歩那は帰って来るなり、クッションを三つ投げつけた。
「何時だと思っているのよー! 電話は無いし、メールだって返信して来ないし!」
これはやばいと智樹。本当は疾(やま)しい事は無いのだが。
「メールしたよ? 仕事だからって」不思議に思って素直に訊いてみた。
「し・て・な・い!」おでこが怒っていた。
「もう一度携帯見てみてよ」智樹は落ち着かなくてはと冷静に対処した。
「無いよ~。宣伝ばっかりよ」ピコピコと携帯をいじく弄り乍、髪迄乱して半狂乱である。
「うそ? 美歩那? 『宛先』を間違えたかな?」
「あ、あった……。あれ? 何で気が付かなかったのかな? あ、シチューが噴いたんだった! バカバカ! 美歩那のバカ! おドジ!」後悔が胸を貫いた。
「気にしない、気にしない。ご飯にしようよ」智樹は頭をコツンと叩いてシチューを温め直した。
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10 スタジオえるむで
智樹は六本木の「スタジオえるむ」に居た。
「ピルルルル……」携帯の着音がメールを知らせた。
「やっべー! 美歩那、怖いんだよ~もう勘弁してよ」スタジオの隅に行ってメールを開いた。
「返信しないとぼこぼこにされるんじゃないか?」
[件名]
ごめんなさい
[メッセージ]
仕事でした~! これからダッシュで帰りたいけど、今、帰れないんです。ごめんなさいです。後で埋め合わせするから勘弁して下さい。ぺこり。★智樹より
「ちょっと~、こっちは裸で寒いんだからね! 早くしてよ!」遠くで下品な声がした。
智樹は、他のHな写真を撮らないかと言うオファーを受けていた。本当は美歩那以外撮りたくなかったのだが、美歩那の事を考えると引き受けざるを得なかった。
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9 メールの行方が
或る日、自宅のエトワール六○五号室へ帰ると智樹が居なかった。
「智樹さーん?」
不安が美歩那を覆い尽くし始めた。
「智樹さーん……?」
「何処に行っちゃったの?」
留守電を聞いてみる。
「ピー。メッセージはありません」何とも無機質な声だった。
「あ、そうだ! メール、メールっと」携帯を見ても、広告すら入っていなかった。
「あれ? おかしいな……? 新しくメールを送るか。いつもはそんな必要は無いんだけどな」
[件名]
愛妻より
[メッセージ]
今は何をしているのかしら? お仕事で遅くなるのかな? 昨日はそんな事言っていなかったから、ご飯先に食べちゃうぞ。☆美歩那
「これでいいかな。ちょっと意地悪かも」てへって一人で笑ってみた。
グリーンのチェックのエプロンを取り出した。
「さてと、本当にご飯作りましょうねえ」
美歩那の胸の中は智樹の事で毎日一杯だった。でも、今迄はこんなに不安な思いをした事が無かった。信じよう、信じようと考えれば考える程、自分が却って犯罪者の様な気分に陥った。
「私……。智樹さんを愛していると思っていたけれど、それはまだ、私が子供だからだったのかなあ。モデルとして、カメラマンとしての相性は良いよ。被写体は美歩那だけに決めたって、この間、写真集、『Comme d'habitude』を作り乍決めたじゃない。恋愛って難しい……。はあ……」
ニンジンをぼんやりと眺めていたら、シチューが噴いてしまった。
「あちちっ」
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8 二杯のモカさえ
喫茶「めるすぃー」の扉をガランと開けた。いつもの席が待っていた。窓際の良く通りが見える小さな白いテーブルだ。
「マスター、モカ二つお願いね」智樹の声を聞いて向こうで明るい返事が来た。
「ねえ、アタシ達、結婚式できなかったじゃない? お金も貯まって来たし、世間的にも智樹さんのお仕事認められて来たじゃない? 智樹さんのお義父(とう)様もうんと言って下さると思うの。どうかな?」
智樹は暫く窓の向こうの景色を頬杖をついて見ていた。
「うんって言ってあげたいけれども、それはちょっと難しいな……。ごめんね」智樹は静かに首を垂れた。
哀しそうな顔で美歩那は呟く。
「な、な……んで?」
「仕様が無いよ。僕達は時期を逃してしまったんだ」
智樹は、君が学生だから、高校生だから。それに君よりも俺の稼ぎは少ないから、式や披露宴は無理だとは言えなかった。
「酷いよ、智樹……! ウエディングドレスだって着たいし、指輪だって皆の前で交換したかったよ!」
「困ちゃったなあ……。ごめんね。勘弁してよ。結婚できただけで良いじゃない。もっと大変な人達いるよ。ごめんね。俺が悪い事にしていいからさ。俺は美歩那と結婚して……」
「バカバカ……!」智樹の話が終わる前に美歩那は頭をバシバシ叩いて出て行ってしまった。
「あ……美歩那」
止める術も無く、暫くして、冷めたモカを二杯飲んだ。
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7 Comme d'habitude
――半年後の現在。
以前から企画していた写真集、『Comme d'habitude』がやっと完成し、出版された。
「ねえねえ、智樹さん。これ!」学生通りの金沢書店の店頭ではしゃぐ美歩那。
「ああ、やっと、二人での初仕事だな」智樹は満更でもない顔でちょっとにやついている。
「買う人、居るのかな? 智樹」と、美歩那が語り掛ける傍から、智樹が耳元を擽(くすぐ)るように囁いた。
「当たり前だろ。お前、喰いたいもん……」
「ばかあ、智樹」照れて智樹の鼻をピシャンと叩いた。
「エプロン一枚の写真撮ったろ。あれ、そそられるぜ……」意外にマジな顔で苛める智樹。
「や、やだあ」耳迄真っ赤になった。
「夫婦になってから初めての仕事だよな。二人の……」ついこの間迄、編集に追われて疲れ果てていたのが嘘の様であった。
「だよね~。苦労したもの……」美歩那は、3kgダイエットしたのだった。それが、彼女にとって、ちょっとした苦労なのかも知れなかった。
「お前は寝てただけだろう?」くすくすと笑ってからかう智樹。
「バカバカ! ちょっとうたた寝しちゃっただけじゃない!」肩をパシパシと叩く。美歩那には何かあると叩く癖があるらしい。
「なーんて冗句だよ。美歩那は真面目にやってたさ。ちょっと良いショットあったけどなあ~」空を見つめてちろりと横の美歩那を見た。
「もう! それはー、智樹さんだから撮れたの! 他の人には見せない顔だもん。ぷんだ」智樹はふくれっ面も可愛くて仕様が無くて、笑いを堪えていた。
「分かってるって……! まあまあ、お嬢様、貴女の好きな珈琲でも飲んで行かない?」
「うん!」
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6 愛をかたちに
――それから、一年後。
二人は、籍を入れた。家庭の事情を汲んで、華菱高校側も許可してくれた。しかし、派手にされては困ると釘を刺されて、二人は、結婚式は挙げられなかった。
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5 めるすぃーの気持ちの
数日後、智樹は本当に白蓮の栞を持って来た。
「あ、ありがとう……」コトバを選んだが、それ以上のものが見つからなかった。
「じゃあ、お礼に、珈琲でも如何? 好きなのが見つかると良いんだけど。ちなみに俺はモカが好きなんだ」昨日とはうって変わって明るく気さくな感じだった。
喫茶「めるすぃー」を訪ねた。アールデコを思わせながら白を基調にした不思議だがムードのある素敵なお店だった。
「俺はモカね、君は?」常連と言った感じであった。
「美歩那って呼んで良いよ」君だなんてちょっと可笑しいと思って吹いてしまった。
「じゃ、じゃあ、『美歩那』は何を飲んでみる?」智樹は照れ乍メニューを差し出す。
「同じのにします」美歩那はにっこりと笑った。
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4 ポーラスターの恋は
それから撮影が終わって、美歩那は一人住まいのアパート、ポーラスター三○三に帰って、涙ぐんでいた。
「やだ、どきどきしている……」
クッションを濡らし乍、『相川 智樹』と言う人物について考えていた。
「これって、恋なの?」自問自答をしようとしていた。
「恋って甘酸っぱいものなのね……」クッションを叩いてみた。
「この私が、オトコ何かを好きになるなんて……。だって、あの笑顔みちゃったら、忘れられないじゃない?」
背伸びをして、時計を見る。
「もう、寝るか……」不器用な美歩那であった。
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3 白蓮の栞を
智樹が落ちついて話した。
「俺、相川 智樹。自称だけど、カメラマン」
校庭で白蓮(はくれん)が香る。花弁(はなびら)が一枚ひらひらと舞った。
「私は、香坂 美歩那(こうさか みほな)。親に仕送りをする為にモデルの仕事しているんだ。まあ、送っても余るから、残りはお小遣いね。うふふ」
「苦労しているんだね。この白連の樹の前で君を撮りたいな。お母さんに送ってあげなよ」急に真面目になった。
「苦労してないもん。いいよ」ツンと言った。
智樹は白連の花弁を拾った。
「これ、栞にして贈るよ」智樹は、恥ずかしそうである。
「え? 何で私に?」どきっとした美歩那。
「俺! 一目惚れしました!」
智樹は、ジュースの自動販売機なんてどうでも良かったのであった。
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2 出逢いは
――一年前。
その時の事を美歩那は鮮烈に覚えている。授業がたまたま自習だったので、その日のロケに間に合う様に、早弁をしに購買部へ行く所だった。購買部は一旦梅宮(うめみや)校舎を離れて松宮(まつみや)校舎に行かなければならなかった。
「あの……!」後ろから声が劈(つんざ)いた。
「はい、何かしら?」振り返るとジージャンにジーパンにTシャツ姿の、野暮ったい感じの男性が立っていた。そして頭をぽりぽりと掻きながら、恥ずかしげに下を向いていた。どうやら、やっと声を掛けたと言う感じであった。
「今日、俺、い、いや僕は華菱高校の学生証用の写真を撮りに来たんですよ」怪しまれてはいけないと弁明していた風に美歩那は感じた。
「それで、何ですか?」ちょっと冷たくしてみた。美歩那は元々男性が嫌いで、子供は好きだから欲しいけれど、夫は要らないわと言う矛盾した考えを持っていた。
「の、喉が渇いてしまって、自動販売機は何処ですか?」背筋はピンとし、選手宣誓でもしそうな勢いであった。
「ここは、置いてないんですよ。花嫁修業のつもりか、お茶は当番制で、自分達で煎れているんですよ」さっきよりは優しく説明してあげた美歩那。
「授業の合間に喉が渇いたらどうするんですか?」惚(ほう)けた顔で訊いて来た。
「あはは。面白い方ね」美歩那はマジで笑ってしまった。
「我慢するんですよ。ま、飲料は購買部で売っていますけどね。自動販売機は、無いんです」あっさりと答えた。
「な、なーんだ。あはは」つられたのか、笑い出した。
「私ね、幼稚園から女子校だったし、怖かった父親も今は居ないけど、兎に角、ずっと男性って笑わないのかと思ってた」鳩が豆鉄砲を喰らった様な顔をして美歩那は呟いた。
「あーははは、何? そんな訳ないでしょう? 優しそうなお嬢さん」褒められたのか、貶(けな)されたのか良く分からなかった。
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「SIXTEEN☆結婚物語」
1 美歩那と智樹
相川 美歩那(あいかわ みほな)には、十六歳にして夫、智樹(ともき)、二十五歳がいる。美歩那は華菱(はなびし)高校を休みがち乍(ながら)もモデルの仕事をしており、智樹はカメラマンの仕事をしている。モデルとカメラマンと言う関係で、二人は、一年半前に出逢ったのだった。
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「SIXTEEN☆結婚物語」序
諸注意
18禁小説ですので、未成年者はご覧にならないで下さい。
20歳未満です→ご覧にならないで下さい。
20歳以上です→「SIXTEEN☆結婚物語【2】1美歩那と智樹」へお進み下さい。
『SIXTEEN☆結婚物語』は、女子高生モデル美歩那とカメラマンで年上夫の智樹との甘い新婚物語。[Comme d'habitude]なんて写真集も作ったの。所がジェラシーの波が!?どうしてメールの返事が来ないの?入籍だけなんて、耐えられないよ。短編です。
美少女アルバムシリーズ第2弾。
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-目次-
小説「Ayaのひととき」
☆各章から次の小説を読むには、「次の記事」を選択して下さい。「次の記事」を選択すると、「Ayaのひととき」の頁が次々とご覧になれます。ご協力お願い致します。(携帯の場合)。
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「Ayaのひととき」後記
-『Ayaのひととき』と創作活動-
『Ayaのひととき』は、私が、高校卒業後、四つ目の学校に当たる大学院を、病気を理由に休学している時に、父がパソコンを買ってくれたので、書き始めたもので、かなりな古いものだ。
私は、元々、オリジナル漫画を描いていたので、ストーリーを作るのは初めてではなかった。寧ろ、好きと言って良いだろう。
漫画と小説は似ていて非なるものだ。
一般に言われるのは、漫画は、想像力を沸き立たせるのにイラストが入っているので、宜しくないと言う事だが、私は、そのイラストを描く力とイラストから読みとる力とが、作者と読者の間にあって、良いと思う。
これからも、漫画や小説等のジャンルに囚われずに、描いて、書いて、行くつもりだ。
此処までお読み下さり誠にありがとうございました。本当に拙い作品ですが、どうぞ、儚い愛を見守ってあげて下さい。そして、こんな世界もあるのだと言う事を物語として心の片隅に灯してあげて下さい。
まずは、御礼まで。
***
しいなゆうひ
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3
一九九七年七月七日、東京。
天はAyaの表と裏を映し出した。この事は七夕の空と二人の密約である。
これまで二人は会う約束をした事がない。唯、運命の糸が二人を引き寄せて来た。それは今日で終わりなのだろうか……。
Fin
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2
その日の事だった。強い雨がコンクリートを叩きつけている。深い闇が天を隠した。碧い空は見られなかったのである。
Ayaは何処へともなく走っていた。碧い髪は濡れすぼれ、紅い唇は紫となり、日の元では漆黒に身を包みすくっと立って見えた姿は今はもうない。濡れた鴉の様であった。そして、あの力強い瞳は何処へ行ってしまったのだろうか……。
急いで急いで何処かへ行くことだけが今の彼女にできる事であった。
そして彼女の足は速い。せめて追いつけそうになるのは光くらいのものである。
「Ayaー!」
いつもは叫ぶ事などない光は、Ayaだけを見、走って走って走り抜いた。
そして再び叫ぶ。
「Ayaー……!」
Ayaは路地へ足を運び、ゆっくりと崩れ落ちた。
「Aya……。」
光はAyaを抱き起こさず、頬に左手を当てた。
「大丈夫……。大丈夫なんだよ……。Aya……。」
Ayaは雨に身を預けた。頬には雨とも涙ともつかぬ滴が流れ……もう空しか仰いでいなかった。しかし、しばらくもすると、光の真摯な眼差しを受け入れようと顔を拭い、微笑みさえ浮かべて見せた。
「ごめん……。何でもない。今日は雨だったね……。唯それだから……さ……。もう何でもないんだ。」
Ayaは体を起こした。
「私は側にいるだけでいいかい……?」
光の眼差しはマリア様か如来様か、とにかくこの上なく優しく、慈悲深く、包容力の限りを尽くしていた。
「そうだよ……。よく分かったね。」
Ayaは生まれて初めて頬を染めた。寒さのせいか……。そうとも取れる微かな桃色を潤んだ瞳の元に呈した。
「当然だよ。Ayaの事を私は良く知っているし、全てを受け入れられる。私はそういう人なのだから……。」
Ayaを抱き締めようと左手を伸ばしたが、軽く震え、そしてその手を拳にして雨をとうとうと流すコンクリートの壁に軽く当てた。
「全ての人に愛を向ける事はないと……私に語った事があったね……。それで良いんだAya。でも、でも、愛が欲しい時は大きな声で叫んで良い。自分の気持ちを大きな声で叫んで良い。誰だってそうなんだ。」
光は天を仰ぎ、雨に顔を任せた。
「……光。……光。……光。……こ……う……!」
Ayaは体を起こし、光に哀れな顔を近づけた。
光もAyaの気持ちを察し、緩やかな瞳で見つめた。
Ayaはそれに何時になく弱々しい表情で呟いた。
「愛は、何処にあるの……?」
「それは、Ayaが知っているはずだよ。」
「……光。……光。こ……う……!」
Ayaはなだれ込み、光に身体を預けた。
「分かっているよ、全て……。Ayaの事は全て……。」
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≪今……このひとときを……≫
1
一九九七年七月七日、正午丁度に東京の生臭い港で二人は青い空を見ていた。
光は李凛の手紙を預かっていた。服装は今日という日を意識してか、着流しに下駄である。なぜか風に呼ばれて此処に足を向けたら、Ayaが黒いスーツに黒いスカーフ、赤いサングラスに黒い小さな帽子の姿で物憂げに空を仰いでいたのである。光がAyaにあったのは九日振りである。何時もは緊迫した状況で二人は出会いそして行動を共にし、別れて来た。しかし、今は急ぐ事はない。
そして二人は軽くその場に座り、自然と空を見始めたのである。
「なあ、今夜は晴れた方が皮肉なのではないか…。」
Ayaは光の傷ついた左手にそっと触れながら呟いた。
「ああ、七夕の伝説ですね。」
光は眩しいばかりに晴れ渡った天を仰いで言った。
「そうだ。」
Ayaは一時の休息に甘んじている様である。
「雨が降ると会えないという……。」
光も今だけは酔いしれているような口調で言った。
「会わない方が傷つかない事もある。ふう……。私も……。Kouと会わなければ……と……思う事もある。」
触れていた手をそっと離した。
「私の事は……いや、全ての人にAyaは……愛を向ける事はないと……何時か李家に居る頃、私に語った事があったね……。」
光はAyaの揺れる碧の髪を見つめた。今まで同業者、或いはパートナーではあった。勿論、彼女は自分が女性である事を誇りに思っているし、変装はした事があったが、男装をした事がない。そして光も性別を越えて付き合ってきたが、Ayaを女性以外に否めない。光はこの完璧な才能の持ち主の側にいられるだけで……良いと思っている。いや思って来たのか。今日は何故か揺れている。ゆるりとした時間が彼をそうさせたのだろうか。
「そうだ。」
Ayaも酔いしれている風であったが、今はいつもの口癖しか言わない。
「今もかい?」
光はさらりと呟いた。そして、輝くばかりの空から才気に溢れる瞳に目をやった。
「そうだ。」
又、口癖だ。
「そうだ。」
Ayaはもう一度繰り返した。しかし、Ayaはそれ以上の言葉を力強い瞳で語った……。
Kouも溢るる言葉を遮った。
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≪Kou≫
Ayaは友人を持たないが、唯一Ayaと接触する青年がいる。彼の名は河合光。コードネームはKou或いはK。
Ayaとはあらゆる時を共に過ごして来た。Ayaはある時は香港を占めていた李家の盲目の令嬢凛の右腕として、ある時はシドニーの世界的名バイオリニストの持つ秘蔵のコレクションの管理人、ある時は某国大統領婦人の影、ある時は双子の雄の三毛猫の主人をしていた。光はその時々に主に情報屋としてサポートをして来たのだ。
しかし、Ayaは光と同衾した事はない。
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「Ayaのひととき」
≪Aya≫
Ayaは香川綾、花井彩、水木亜矢、Aya Lee、Aya Schwarz……本名は知れない……。唯、Ayaと呼ばれる。
語学の秀才で、各国語どころかどんな地方の方言でも操れる。
又、狙撃の天才でもある。視力は4.0。動体視力も優れている。どんな獲物でも神業ともいえる腕でヒットできる。しかし、人を殺めた事があるかどうかは本人のみぞ知る所である。
初めて銃を手に取ったのは三歳の誕生日。雪の降る凍える様な静寂なビルの谷間で母から与えられた。その手に余る大きな銃はワルサーP-38。銃口に龍のペインティングが施してあり、トリガーに母の名が刻んである。今はその刻印も読み取りにくくなってしまった。Ayaが何時如何なる時もその銃を手放さなかったからか……。銃の手ほどきを母から受けた訳ではない。唯、母と仕事を共にしていただけだ。
十歳の誕生日、その日は小春日和だった。清々しい気分で白い布で仕切られただけの母の寝室を開けると母は消えていた。自分にAyaという名と母の名の刻んだ銃にDer Schwaze Dracheという名を残して……。Ayaがその時感じたのは、母が出で行く気配に自分が気付かなかったという未熟さのみであった……。
今日、彼女は十になった。普通の少女ならば未だ母に甘える時期であろう。しかし、彼女は母の面影を追うつもりはない。唯、心の何処かで再び会う事があるのではないか……という期待、いや予感だけがあった。
今、少女は成長し、Ayaと呼ばれ、又、その誇り高さと銃の腕前から孤高の黒龍とも呼ばれ、恐れられている。それがAyaだ……。それがAyaなのだ……。
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「Ayaのひととき」序
コードネームはAya。孤高の銃の使い手。Ayaと唯一接触をする青年情報屋K。ある七夕の晴れた日に、二人は久し振りに際遇した。ゆるりとした時間が流れたのも束の間であった。白雨の中、Ayaが走り出し…。愛は何処にあるの?サイドストーリーです。
美少女アルバムシリーズ第1弾。
* 携帯で見易い様に小説「Ayaのひととき」を改稿しました。
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ひなちゃんの足の奇形とママの精神科での疲れのお話をしたいと思います。
昨日、12月19日は、ひなちゃんの足の奇形の診察でした。
着くなりうんち大爆発でやられました。ガイドに案内されて、トイレの付いた個室の中で、精神的に追い詰められてやり難い中で、おむつを取り替えて着替えさせました。20分位掛かりました。
待ち合い室で、「4ヶ月位ですか」と女性にきかれましたが、いえいえ7ヶ月です。
第6しだけではなく、第3しにも問題があるようです。
手術日等のスケジュールを立て、予約をして帰りました。
今日、12月20日は、私の精神科の診察です。
とても疲れました。
「夫が車庫から帰って来る迄、悪い」と、私は思って、パソコンを触りませんでした。しかし、帰るなり夫が触ろうとしたので、「使いたいと思っていた」と、私が言ったら、夫は、怒っているのかいじけているのか、「あっちへ行くからいい。料理作らないといけないし」と言われ、私は、精神科で疲れているのに追い打ちを掛けられて、やる気を無くしました。
ゆうちゃんを迎えに行くのにダウンしていて、「行く」とは言ったものの、怠くて、そうかと言ってひなちゃんの癇癪には付き合えず、夫に選択を迫られ、「貴方はひなちゃんをおんぶして迎えに決して行かないのよね」と言ってしまいました。「具合が悪いからそう言うんだろう。休んでな」と言われました。
帰って来たら、謝ろう。
今日は、なるべく一緒にいよう。
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ゆうちゃんぶったね事変についてのお話をしたいと思います。
ゆうちゃんは、夜中にお菓子を欲しがりました。泣いて煩く欲しがりました。
夫に、「ママ、チーズあられ持って来て」と言われたので、探しましたが、見付からなかったので、私のストレス解消の柿の種をゆうちゃんに少し与えました。そこへ、夫が、チーズあられを持って来て、ゆうちゃんに上げました。
所が、ゆうちゃんは、全く泣き止まず、「おしぇんべ~」と言って騒ぎ、駄々を捏ねました。
夫がゆうちゃんを叱るのに、叩いたのです。私には、ゆうちゃんの頭は吹き飛び、叩いたと言うよりも思いっ切り殴った様に見えました。
私は、荒れに荒れて、布団をドタンバタンとしていました。夫に、「頓服飲めば?」と言われ、精神科の頓服を飲みました。
それでも治まりません。
刻々と時間が過ぎて行きました。
ずっと黙っていましたが、夫に、とうとう口火を切りました。
「何で?」と、私。
「何が?」と、夫。
「どっちが痛い?ゆうちゃんとママだよ」と、引き出してやる私。
「ママは殴ってないでしょう?」と、ガードしているのか夫。
「Iの事で、お前に6発ぐーで殴られた。それだけはない」と、私。
「又、嫌な事を話すなよ」と、もの凄く嫌そうな夫。私だって嫌だよ。
「何で殴った?」と、元に戻って私。
「言う事をきかないからですよ。殴ったのではないよ。叩いたら、ゆうが偶々よろめいたんですよ」と、夫。又又言い逃れ。許せない。
「暴力を振るって良いって良いと何時言った?」と、私。
「言っていませんよ。君は何もしなかったじゃないか」と、夫。
「貴方に言われた通りにしました。貴方は従わない人が嫌いですからね」と、私は、嫌味を言い乍言った。
「暴力反対!」と、謳歌する私。
「じゃあ、どうするんだよ、君は?持論を聞かせてみろよ」八方手を尽くしたと言わんばかりの夫。
「諭して分かる様になる迄、待つよ」と、絶対に殴らないで欲しいと言う願いを込めて言った。
「分かった」と、夫は渋々、淡々と言った。
その後長く話した。
私の病気が憎いと夫は言った。可哀想だとも言った。
「私への人格否定か。性格迄悪いと言うか」と、私が話の中で言い切ったら、夫は、「具合が悪いだけで、人格を否定していないよ」と言ってくれた。「本当の君は、とても優しい。言い方だって優しい。子育てだって、君が病気にならなければ・・・俺が今回の子供の事で買被り過ぎたのかな」と、仕事に戻る話にも及んで、深夜迄、淡々と興奮した神経を抑え乍、眠くなって来て、「堂々巡りだ。もう寝よう」と言われる迄、話し合った。
深い夜は沈んだ。
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私達の結婚記念日のお話をしたいと思います。
特にお出かけと言う程ではないのですが、近所のスーパー等にお買い物に行きました。
先ず、工場直売のケーキ店に行き、家族の為の結婚記念のケーキをママが買いました。ショートケーキを四人家族だから四人分と考えていましたが、ホールケーキを見て、四角い栗のケーキを求めました。プレートを付けてくれると言うので、薔薇のプレートを選び、「Happy はーとまーく Shina」と入れて貰いました。メモ紙に振り仮名も振って置きましたが、店員の方が間違えて、「Happ はーとまーく Shino」となってしまいましたので、直して貰いました。1500円の所をポイントカードで割引して貰って、結構安く買えました。美味しそうです。只、2200kcalもあるのですよね。
その後、コンビニのローソンで、雑誌をママがビッグコミックスピリッツを買いに行き、パパが少年ジャンプを買いに行きました。何か慌てていて、ロッピーカードを出すのを忘れました。袋は要りませんと言いました。
次に薬局で、ゆうちゃんのパンパースのトレーニングパンツとBigサイズのGENNKI!のアンパンマンのおむつとひなちゃんのSサイズのGENNKI!のおむつにミルクの明治ほほえみをパパが買いました。
その後で、今度は皆で、スーパーに行きました。夜はおでんと広告の品の文句とおでん腹で決めました。お昼は、たらこスパゲッティーと明太子スパゲッティーにしました。パパとママがが明太子で、ゆうちゃんはたらこです。飲み物もセール中で、激安でペットボトルを2本買ってみました。中でも、珈琲を切らしていたので、市販ので増量割引中のブルーマウンテンを買いました。楽しみです。パパだけビールです。いいなあ。私は、呑めるけれど薬を飲んでいるので遠慮しています。
一旦四人で帰宅後、パパは徒歩20分先の駐車場に車を置きに行きました。帰りは自転車で帰って来ます。ふぁいとー。おー。
お昼にしました。ゆうちゃんは、スパゲッティーが大好きです。殆ど食べてくれました。今日は昨日と打って変わっていい子です。
ひなちゃんがおっきしてから、ママはミルクを上げました。
その間に、パパにお茶を淹れて貰って、結婚記念のケーキを6等分に切って、私達はお茶にしました。ゆうちゃんとパパとママで食べました。
ゆうちゃんもフォークで食べるのに格闘していました。パパも教えるのですが、中々難しい様です。「パパのフォークを貸してくれ」とか、「今度はママの」とか要求をして来ます。きちんと交換して貸します。結局、「あーん」をして上げたり、「残して後でもいいからね」と言ったりしましたら、頷きました。
ゆうちゃんとはお馬さんの歌を歌ってお膝でかたかた揺らして擽る遊びをしたり、トイレトレーニングを付き合って、一回に7回も「うんち」と言われて、脱いで穿かせてをして、結局何も出なかったりしたけれども、「それも収穫かな」と思ったりして過ごしました。
ひなちゃんは、又、今日も愚図ったのですが、結局落ち着いたのは、ミルクを飲んだ後、お茶の時間に大きな座布団に斜めに寝かせた所、「いい感じです。お母様」と言って、おしゃぶりを吸っていた頃です。その後は、危ないので、ママの隣に寝かせました。暫く、ゆうちゃんお兄ちゃんの我儘にママが付き合っていても、大人しく、私のパーカーの紐の端を一所懸命引っ張っていました。紐属性ありかも。ママとしては、ママ属性であって欲しいです。
今、おでんの支度をパパがしてくれて、二人で寛いでいます。多分だけど。パパはゲームをしています。時間を細かく使うのですよね。私は、今日のブログは良いタイミングで書けたらと思って今書いています。昨日は、ネットの不具合で、パソコンから書けませんでした。
子供達が寝ている時間って、可愛い寝顔ですが、静かで寂しいと言えば寂しいです。賑やかなのも子供にとっての長所なのでしょうね。
私は自分が煩いので、少し構わない位が丁度いいのかも知れません。夫も私以外には寡黙な方です。私には説教の日々だったり呆れられて見放されたりと激突囂々(造語です)です。
ビターな日々を送っておりますが、「離別するから」とか「私が自殺して貴方を楽にさせるから」とか私が病的な発言をしても、「未だそんな事を言うのか。その事に呆れる」と言われます。自分では、「物臭だから、もう一回最初からなんてやっていられない」とか言ってくれますが、結局優しいのでしょう。リセットボタンなんてないものですよ。
「ちょっとビター。でもチョコレート。」そんな関係です。
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ママのパパとの想いについてお話をしたいと思います。
今回は、兎物語です。
私は、兎が大好きで、大館に暮らしていた頃に、真意(まい)ちゃんと言うライオンラビットとも暮らしていました。新婚生活で、服薬の為、子供を作れないと言う寂しさから、飼う事を許されました。
よく心の病気の症状で、当時ボーダーラインか現在は統合失調症と呼ばれている精神分裂病かも知れないと言われていたのですが、おかしな事を行ったり言ったりしていた私は、夫によく喧嘩を吹っ掛けました。多分私が悪いと思います。そう言う時に、夫婦喧嘩になる訳ですが、泣き乍、真意ちゃんに餌を与えてたりお水を交換したりしている私を見て、夫は、「動物の好きな人に悪い人はいないから」と言って、寛大な態度で包み込んでくれました。
真意ちゃん、覚えていますか?パパはとっても優しい人なのですよ。
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私が夫の気になる所のお話をしたいと思います。
夫の趣味は、「携帯電話」、「読書」、「ゲーム」、「インターネット」、「エロネタ探し」です。
ゲームをしたりしているらしい「携帯電話」。
漫画雑誌、少年誌週3冊、四コマ漫画週2冊程度?、ブルーコミックスからコミックス版迄漫画本、文庫等がメインの文字メインの本、ゲームの攻略本、ゲームのアンソロジー本、等の「読書」。
プレイステーション2、任天堂DS、携帯電話のフリーのもので最近ではGREEが多い様、インターネットでゲームの攻略サイトを探す事等の「ゲーム」。ソフトは、トゥルーラブストーリーズシリーズ、キミキス等のギャ