« 2008年12月 | トップページ | 2009年2月 »

2009年1月

2009年1月31日 (土)

醒なる美舞【31】 9 秘密の絆-4

「凄い・・・。」
 玲は素直に驚き、称賛した。

「信じられないなあ。美舞先輩に俺の蹴りを完全に受け止められるなんて、思ってもみなかった。俺の方こそ自惚れてたみたいだ。」
「ううん。流石に効いたよ。こんな重い蹴りは初めてだよ。父さんだって、こんなに重い蹴りは放てないよ。」

「それは光栄だな。お世辞でも嬉しい。」
 玲は謙虚である。
「マジで・・・。」

「じゃあ、続きを・・・。」
「行きましょうか。」

 そういうと二人は互いに左上段回し蹴りを繰り出した。それはお互いの顔面に当たる寸前で、お互いの右腕でガードされた。二人は態勢を立て直し、再び構えた。

「やぁ。」
 今度は玲が先に動いた。玲の右正拳が美舞の顔面に迫った。それを美舞は左腕で受け流して、右アッパーを玲の腹部にみまった。玲はそれが当たる瞬間、腰を引いて衝撃を受け流そうとした。しかし、美舞の力は予想以上に強く、防具を着けているにも関わらず、かなりのダメージを食った。

「ま・まいった。」
 玲はそう言うと、その場に座り込んだ。
「大丈夫?ちょっと、入っちゃったかな?」

「いや、大丈夫。」
 玲は顔を顰めて言ったが、口元は笑っている。
「?」

「嬉しいのさ。美舞先輩の強さは本物だ。」
「そうかなあ。でも、誉められると嬉しいな。」
 美舞は照れた。それに対して玲の顔は真剣だ。

「あとは・・・。」
「あとは?」

「力を・・・。」
「!」

「試させてもらわないと。」
「何故・・・。」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月30日 (金)

醒なる美舞【30】 9 秘密の絆-3

「僕は君の強さに魅かれている。僕がもっと強くなるのには、修行あるのみ。君にそのパートナーになってもらう。それなら、此処に居ていいよ。」
 美舞はそう言うと照れ笑いを浮かべた。
「ありがとう。喜んでスパーの相手を務めさせてもらうよ。・・・じゃあ、早速、一戦。」

「O.K.」
 そう言うと二人はトレーニングルームに入り、防具を着け対峙した。美舞は好戦的な笑みを浮かべ、玲の方を見ている。一方、玲は穏やかな顔で目を軽く瞑り両手を軽く垂らした。

「行くよ。」
 美舞はそう言うといきなり右正拳で玲の腹部を狙った。いつもの相手ならそれは見事にヒットする筈だった。しかし、玲はそれを殆ど無駄の無い動きで躱した。美舞は態勢を崩したがそれでも次の攻撃を繰り出した。

「やあっ。」
 美舞が繰り出した左フックはまたしても空を切り、続いて出した右中段回し蹴りもあっさり躱されてしまった。

「くっ。」
 美舞は焦った。今迄両親以外に苦戦する事が無かったのだ。美舞が出す拳や蹴りは空しく空を切り、玲に触れる事が出来ない。玲が守りに徹しているとはいえこれは美舞にとって由々しき事態だった。

「どうしたんだ。美舞先輩の力はこの程度だったのか?」
 玲は皮肉を込めて言った。美舞が持っている一種の自惚れを、なにげに示唆したのだ。自分より強い者は幾らでもいる。その事を知ってはいても、心の何処かで自分は一番強いという奢りがあった。だから、玲の力を計り間違えた。

「あっ・・・。」
 美舞はすぐその事に気付き気を引き締め構え直した。

「ありがとう。今度は手加減しないよ。」
 美舞はそう言うと、玲は構えを攻撃し易いものに変えた。そして突然、右上段回し蹴りを放った。

「ぐっ。」
 美舞は玲の蹴りを肩口でガードした。玲は187cm、75kgあるから、美舞は吹き飛ばされる筈だった。しかし、美舞は1ミリも動く事なく、玲の蹴りを受け止めた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月29日 (木)

醒なる美舞【29】 9 秘密の絆-2

「じゃあ君は土方葉慈の息子なんだね?」
 司狼が纏めた。
「はい。」

「で、葉慈は何故、亡くなったのだね?」
 一番知りたかった事である。
「それが私が帰宅した時には既に亡くなっていたんです。死因は心筋梗塞で外傷も無く、薬物を服用した形跡も無い事になっています。実際、私が出来る限り調べた結果でも、他殺の要因が無いんです。でも、父は体の丈夫さにかけては折り紙付きですから・・・。」
眼差しの熱い玲であった。

「何か不思議な事だね。」
 司狼は少し項垂れていた。
「それで以前から父が言っていた貴方達に助力を頼もうと思いまして。」
玲は顔を上げた侭続けた。

「そうか。よし。それではこれから私達二人で調査して来るから、君は家で寝泊まりしなさい。」
 おじさん司狼のオオカミ発言である。
「え?と、父さん、何言ってるんだ。それじゃ、僕は・・・。」
あわあわと、流石の美舞も手を左右に振った。

「だからね、私達がいなくなると家には美舞しかいなくなってしまう。幾ら強いからと言っても女の子だから、父親としては心配だ。」
「母さんもね。」
 物静かに語られた。

「でも・・・。」
 意外と気弱な所がある美舞であった。
「だから、美舞のボディーガードも兼ねて、此処で生活して貰おう。」
立ち上がって拳を握り締める司狼。

「でも、ご迷惑じゃあ。」
 玲は美舞の方をちらと見ていった。その目は嬉しさ半分、不安半分といった感じである。美舞はこんな目に弱かったりする。
「うーん、よし、じゃあ僕のボディーガードじゃなく、パートナーとして此処に住んで貰おうか。」
ゲンキンであった。

「えっ?」
 玲は本気で目を丸くした。意味が分からなかったからである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月28日 (水)

醒なる美舞【28】 第9章 秘密の絆-1

第9章 秘密の絆

 美舞の家は徳川学園都市の北端に建つ、普通の庭付き一戸建である。

 一階にはリビング・ダイニング・応接間があり、二階には美舞の部屋兼寝室・司狼の部屋・真理亜の部屋・二人の寝室・トレーニングルームがある。

 三人が住むには十分の広さで、友人の多い司狼には毎日と言っていいほど誰かが訪ねて来る。この日はたまたま、誰かが訪ねて来る予定もなく、いつもより静かな三浦家であった。その静寂も美舞の帰宅と共に一変する事になる。

 見た目からは想像できない程騒々しくなってしまった中年男“三浦司狼”ことウォルフガング=アルベルト=ミュラーは娘の帰宅にいつも玄関で迎え、日課のように抱き締め、頬にキスをする。美舞は些か辟易している。それでも司狼には悪気がないのは明らかなので我慢をしている。

 一方、往年の容色が些かも衰えていない、“漆黒のマリア”こと三浦真理亜は夫とは正反対で妙に落ち着いている。

 二人は美舞が男友達を連れて来た事で先ず驚き、その男が自分達の知り合いの息子である事に再び驚いた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月27日 (火)

醒なる美舞【27】 8 突然の玲-3

「それで、君の家は何処なの。」

 美舞のその質問は、別の言葉で返って来た。

「突然で悪いんですが、貴女のお宅へ伺いたいんですが。」
 玲の顔は真剣でかつ緊張していた。それに対して美舞は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「は・・・あ・・・?」

「ですから、貴女のお宅へ・・・。」
「あの・・・、話が見えないんだけど。」

「土方君、もうちょっと詳しく話してくれないかな?」
 日菜子は横から入って二人を落ち着かせた。そして、三人で公園にあるベンチに腰掛けた。そうしてから改めて玲は二人に話始めた。

「私は貴女のご両親にお会いするためにこの学園に入学したのです。」
「僕の両親?」

「ええ。私の父親は昔、傭兵をやっていて、貴女のお父様と仲が良かったそうです。父は昨年他界しましたが、遺言に貴女のご両親にお会いするようにと言われたのです。」
「そう・・・。」

「それで私は徳川学園に入学し、生徒名簿を調べて、三浦美舞という名を捜し出しました。貴女が男子空手部に所属していると知って、貴女と知り合いになる手っ取り早い方法、つまり空手部に入部したという訳です。」

 玲は話終えるとふぅと溜息をついた。元々、口数の多い方ではないのである。相手が初対面という事も多少影響している。美舞も日菜子も玲の様子がまともそうに見えたので取り敢えず信じる事にした。玲は表情が穏やかで人当たりが良い。初対面の人にも安心させる雰囲気を持っている。

「じゃあ、家に寄って行ってよ。」
「ありがとうございます。」

 二人は日菜子と別れた後、美舞の家へと歩いて行った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月26日 (月)

醒なる美舞【26】 8 突然の玲-2

 美舞は日菜子と共に歩いて帰宅していた。二人の家は意外と近いので、よく一緒に帰る。日菜子のガードも兼ねて。

「ねえ、美舞は誰に目をつけているの?」
 にやにやの日菜子。
「目をつけるって・・・ねぇ・・・。」

「別に変な意味じゃなくってね。美舞から見て期待できる子っていた?」
「そうだな・・・。女子はやっぱり日下部涼って子かな。いい蹴り持っていたし、スピードも十分ね。基本ができているから伸びるよ。男子は土方玲って子かな?男子は実力が拮抗していて誰って言うのは難しいけど、土方君が二歩ほどリードかな。」

「何?二歩って・・・」
 又、日菜子は口をとんがらがせている。
「それはね、土方君は・・・。」

「呼びました?」
 突然、二人の背後から声がした。二人が振り向くとそこに土方玲が立っていた。微笑みを浮かべながら。

「びっくりしたなあ。いるなんて気付かなかったわ。」
 日菜子は本当に驚いた様である。それに対して、美舞は無言である。それを玲は微笑みつつも見つめている。

「それで先程の事なんですが・・・。」
「?」

「二歩の事ですよ。ほかの奴らより二歩って・・・。」
「あれの一つは今の君の行動からも分かる。動きにそつがない。僕の後ろに気配を感じさせずに立ち得た人は一握りしかいないよ。もう一つは・・・。」

「もう一つは?」
「君には他の人にない、力を感じる。」
 美舞は目に力を入れた。

「力?」
 玲は先程迄の微笑みを消し、真面目な表情になった。図星をつかれたと顔に書いてある。

「鋭いですねぇ。驚きました、正直言って。」
 今度は美舞が微笑む番だった。美舞には同じ匂いを持つ人間が此処にもいた事が嬉しくもあり意外でもあった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月25日 (日)

醒なる美舞【25】 第8章 突然の玲-1

第8章 突然の玲

 大会は順当に進んで行って、男子の部には二人、女子の部には三人、混合には六人、新入生が残った。

 注目すべきは混合の六人で、名前は月代夕矢、火野光輝、水城猛威、木田洋次、金山柔一、土方玲という。彼らは皆、先輩たちを相手に危なげなく闘い抜き、ベスト十六に入った。

 特に土方玲は相手に指一本触れさせる事なく倒して来た。

 その他の五人も怪我ひとつなく勝ち上がったのだから期待されて十分だ。後に女子部の日下部涼を加えて、徳川七人衆と呼ばれる事になるがそれは別の話となる。

 兎に角、翌日の決勝大会を控えて、残った計四十八人はそれぞれ帰路についた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月24日 (土)

醒なる美舞【24】 第7章 熱い大会

第7章 熱い大会

 第一体育館は超満員だった。

 これでも空手部は格闘技ブームのせいもあってか人気は良い。

 空手部では観戦料として幾らかの料金を徴収して部費の足しにしている。

 体育館には四つのステージが在り、その上は畳敷きになっている。それはこの大会のルールとして投げ、間接技も認めており、空手家と雖も板間に投げられればきついからである。ステージは十メートル四方で、端には白線が引いてある。この白線から故意に出たら場外負けとなる。もし、不意に出てしまった時は一本扱いとなる。

 基本的には凶器攻撃、噛み付き、急所攻撃は反則、二本先取のフルコンタクト制である。

 審判は空手部の三年が務めるので心配はない。男子の部、女子の部、混合と在り、基本的には体重制限はない。これは実戦において相手の体重が選べる筈がないからである。

 以上のルールで空手部の新入生歓迎大会は行われる事となった。

 大会開始は入学式終了後、三十分経過した二時からで先ずは予選が開かれる。此処で残った各十六人が翌日の決勝へ進める。予選参加者は新入生が男子の部十三人、女子の部七人、混合十五人(男子のみ)、空手部員は男子の部二十人、女子の部は十三人、混合は二十七人(女子一人)で、計男子の部三十三人、女子の部二十人、混合は四十二人(女子一人)である。

 注目はやはり混合で毎年此処では壮絶な闘いが繰り広げられ、必ず病院送りが出るという余りにも危険な、しかし、興奮する大会なのである。この事について学校側は生徒自身の責任において行う事としか述べていない。当然、治療するのも学生なのだから、学校の方針に背いてはいない。

 兎に角、徳川学園の熱い半日は始まろうとしていた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月23日 (金)

醒なる美舞【23】 6 学園のアイドル-3

「守られたいから?ひなちゃん。」
「そうね。私の前で無様な格好を見せなければ良いわ。喧嘩に弱くても、何物にも負けない気持ちを見せられれば、強いって事だと思うのよ、私は。」

「うん。幾らやられても立ち上がろうとする。そういうところを見せられる人だったら、喧嘩に弱くても良いよね。」
 わくわくとして答えた。それも毅さであると思ったからであった。
「へえ、美舞もそんな風に考えてたんだ。」
日菜子には意外だった。

「そうだよ。」
 こちらも意外の美舞。
「じゃあ、新入生の中からそんな人が出て来るといいね。」

「うん。」
 冷や汗の美舞を日菜子は見つめていた。

 こうしてみると美舞も普通の女の子である。友達とボーイフレンドの話もするし、芸能人の話もする。プリクラもするし、携帯も持っている。それでも美舞の特殊さは群を抜いていたが。

 入学式当日、校庭はクラブ勧誘で賑やかになる。文化部、運動部、応援団、様々なクラブが新入生を獲得するために躍起になる。

 美舞の所属する空手部は新入生歓迎大会と銘打って大会が開かれる事になっている。それは新入部員と空手部員がトーナメント方式で闘って、その実力を測ると共に先輩としての威厳を示す目的がある。先年は美舞が優勝したがそれは余りにも特殊で、普通は先輩側が優勝するのである。

「よーし、今年は少し遊ばせてもらおうかな。」
 手を組んで伸びをした。
「いいの?そんな事言って、美舞。」

「そうね、まあ、僕が本気を出してやろうと思う人は居ないと思うな。」
 美舞はおどけて言った。事実、今の空手部には美舞より強いものが居ない。去年は三年生に何人か美舞を満足させる人がいたが、それも卒業と共に居なくなってしまった。現在の二年にも三年にも美舞と闘える人はいないのである。

「そうか・・・。まあ、お手柔らかにね・・・。」
 日菜子は心配して言った。

 二人は二三言話した後、第一体育館へ入った。此処で新入生歓迎大会が開かれるのである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月22日 (木)

醒なる美舞【22】 6 学園のアイドル-2

「だってさ、僕って、女なのに男子空手部員だし、小柄だし、弱そうだし、型破りだし・・・。」
 何かぶちぶちと言う美舞に日菜子が続いた。
「それで?」
美舞のこうした面も日菜子は知っていた。

「だから・・・。」
 未だ、ぶちぶちと言っている。
「大丈夫よ。美舞はそういう面を実力でカバーして来たんだから。馬鹿にする奴には一撃食らわせば良いのよ。そうすれば、女の子だって事も、型破りなとこも、小柄っていうとこも全部認めざるを得なくなるんだから。」
手をパーにして美舞の背中は叩かれた。

「ひなちゃんって、結構過激な所あったんだね。」
 あんぐりとした。
「意外?」
日菜子の口をとんがらせるおどけ方。

「まあね。だって、ひなちゃんは“守ってあげたい女の子ナンバー1”だもの。僕なんか“守られたい女の子ナンバー1”だもの。あはは・・・。」
 乾いた笑いを重ねた。
「それって、自慢?それとも卑下してるの?」
日菜子は優しく訊いた。

「半分自慢で半分卑下かな。可愛いって言われるのは嬉しいんだけど・・・。」
 美舞は小さいのでよく頭を撫でられる。日菜子にも又くしゃくしゃとやられてしまった。
「守られたい?」
念の為訊いた。

「まさかぁ。自分より弱い男には興味ないよ。僕が好きになるとしたら、僕より強い男じゃなくちゃ。」
 至極の事である。
「美舞より強い男の子なんてなかなかいないと思うけどな。」
それも又至極であると思われた。

「だからこそ、いい男だと思うよ。」
 ぐっと美舞が力を入れた。
「そうかしらねえ。まあ、私も強い男の子の方が好きだなあ。」
さらりと日菜子も言ったが、美舞の言う強い男が、毅さも兼ね備えていると言う意味であるとは思わなかった。

 暫く間があった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月21日 (水)

醒なる美舞【21】 第6章 学園のアイドル-1

第6章 学園のアイドル

 美舞が徳川学園に入学してから一年経過した。美舞も無事に進級し、二年になる。

 余談だが、徳川学園の進級テストは所属するクラブやアルバイト先とかで優秀な成績を示すとか、目立った事をするとか、兎に角、進級を決定する教師の興味を買えば良いのである。

 美舞は高校女子空手大会で優勝し日本一になったので、進級を許された。

 そして、空手部には新入生が入り、美舞も上級生として一年生の指導をして行かなくてはいけなくなった。美舞は今迄人に教えた事などなかった。幾ら強くても一年生なのだから、一緒に練習する事はあっても、だれかに指導する事はなかったのだ。

 元々、美舞の闘い方は親から習った我流で、人に教えられたものでもないし、今迄基本の型の練習さえやっていない。だから、美舞はなんとなく不安を感じている。新入生に馬鹿にされないか、と。

 後日、それは杞憂だと分かるのだが、この時の美舞にとっては重要な問題だった。

「ねえ、ひなちゃん。僕、一年生になめられないかなぁ。」

「何で?」
 美舞に“ひなちゃん”と呼ばれた子は答えた。ちなみにこの“ひなちゃん”は芳川日菜子といい、美舞と仲が良い、男子空手部のマネージャーで守ってあげたいタイプの美少女だ。美舞と二人で“徳川学園のアイドル”と言われている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月20日 (火)

醒なる美舞【20】 5 空手部の門戸-7

「しかし・・・、この強さは桁外れとしか言いようがないな。」
 松井が顎に手を当てて言った。
「ええ。」
歓喜の声で頷く加藤。

「日本の女子空手界では敵なしだろうな。それでも、女子部に行く事など考えず、ただ強い人と闘いたいという一点だけで・・・。」
 松井は嬉しいばかりである。
「うちに入る事を考えたなんて、面白い奴ですね。」
美舞の可愛いらしい風貌が余計に加藤のみならず皆にそうさせていた。

「ああ。しかし、あの子がうちに入ってくれたお陰で、ほかの部員のレベルが上がるだろうな・・・。」
 流石部長の観点である。
「楽しみですねえ。」
格闘家としての加藤も負けない。

「何が?」
 松井はひょいと思った。
「あの子がどこ迄強くなるかです。」
闘ったからこそ盛り上がって加藤が答えた。

「そうだな。それを俺たちが見守る・・・か。」
 松井は部長として、こうなったら空手の本懐を学んで欲しい等色々と頭を捻らせていた。
「ええ。」
加藤は大きく頷いた。

 美舞がはしゃぐ姿を見ながら、松井と加藤は真剣且つ楽しげな表情で話し込んでいた。この二人はこれからの美舞が乗り越えなければならない試練の数々を知らないのであった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月19日 (月)

醒なる美舞【19】 5 空手部の門戸-6

「へえ、君のご両親は何をやっているんだい。」
 加藤は柔道等の格闘家かと思っていた。
「今はただのおじさんとおばさんだけど、昔、戦争に参加していたって。」
けろっと美舞は言った。

「戦争?まさか第二次世界大戦じゃあ・・・。」
 加藤にはびっくりな話であった。
「無いよ。僕の両親まだ三十代だもの。何の戦争かは分からないけど、確か・・・傭兵とか言ってたなあ。」

「そうか、その中でも強い方か・・・。」
「うん。お世辞じゃなく、本当に強いよ。」
 美舞は真剣な顔をし、両拳を握って言った。加藤はその姿を見て微笑みを浮かべ、それを見た美舞も加藤に微笑み返す。そして、二人は改めて握手を交わし、お互いの健闘を讃えた。ほかの空手部員も二人の闘いぶりに闘う事の面白さを再確認した。

「松井さん・・・。」
 加藤は松井に向かい一言言った。松井の方も加藤が言わんとしている事を諒承し、美舞に対して言った。

「参ったよ。君の入部を認めよう。君ほどの使い手ならうちでもついて行けるだろう。まあ、女子部じゃ物足りなく感じるだろうから、うちでやる事を薦めよう。」

「わあ。やったあ。ありがとう、松井さん。加藤さん。」
 美舞は16歳の少女に戻り、思いっきりはしゃいだ。先程迄の険しさは全く感じられない。それどころか一目見ただけでは、この少女が大男と対等に闘えるとは分からないだろう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月18日 (日)

醒なる美舞【18】 5 空手部の門戸-5

「うぅおおおおおお・・・・。」
 加藤の左正拳が美舞の顔面めがけて唸った。それはまるで大砲の砲丸の様な一撃だった。その一撃は美舞の可愛い顔を打ち砕くかと思われた。

 しかし、それは美舞の手痛い報復で応酬された。美舞は左腕で加藤の正拳を受け流すと同時に右上段回し蹴りを放ったのである。それは加藤の左側頭部をカウンター気味に蹴り抜いた。加藤はその反動で右へ吹き飛ばされてうつ伏せに倒れ、暫く目を覚まさなかった。

「あっ、加藤さん・・・、大丈夫?」
 美舞はゆっくり起き上がる加藤に心配の目を向けた。加藤の方はと言えば、左後頭部の辺りを左手でさすって美舞の顔を見た。美舞は加藤がどうやら無事そうなのを確認してほっとし、右手を差し出し加藤を起こそうとした。加藤は黙って美舞の右手を握り、美舞の引く力に任せて立ち上がった。そして美舞を改めて見つめ直しゆっくり話し出した。

「まいったよ。君がそこ迄強いなんてなあ。今迄女には負ける筈はないと思っていたが世界は広いな。ましてや男勝りの大女じゃなく、こんなに可愛い小さな女になんて・・・。」

「加藤さんは今迄闘った人の中では強い方だよ。僕の両親は元々凄く強いし、その友人にしても同業者だからとてつもなく強かったもの。その中でもかなりの強さだから自信持っていいんだ。」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月17日 (土)

醒なる美舞【17】 5 空手部の門戸-4

 美舞は改めて構えた。先程からの構えとは違う、心持ち後ろに重心を置いた構えだ。加藤はそれに対して正面を向いて右拳を引いている。

「じゃあ・・・、行くよ。」
 美舞はそう言うと左上段回し蹴りを加藤の右顔面に向けて繰り出した。加藤はそれを辛うじてブロックしたが、ブロックごと弾かれて左後方につんのめった。加藤はすぐさま体勢を立て直したが、美舞が続けて繰り出した跳び右後ろ回し蹴りをまともに顔面に食らった。美舞は体勢を崩した加藤の左顔面に右正拳を打ち込んだ。美舞の拳は加藤の頬を歪め、口の中を傷だらけにし、右後方へ仰向けに倒した。加藤は口の中に血の味を感じたが、それによって益々、闘争本能を擽られるのを感じた。

「ふふっ。」
 加藤は笑うと勢いよく立ち上がり、左拳を引いて構えた。先程迄の防御を目的とした構えではなく、空手の本懐である“一撃必殺”を目指した構えであった。美舞は一瞬、背筋に冷たいものが伝うのを感じたが、それも一種の高揚感であることを知っていた。美舞の方は左肩を加藤の方に向け、重心を右足に置き、左手は地面に垂直に、右手は脇に添えて構えた。加藤は次の一撃に全神経を傾け、美舞にも躱せぬ攻撃をすると教える様な構えをし、それに対して美舞も受けてたっている。どちらも次の瞬間に決着を見ている。

「・・・・・。」
「・・・・・。」

 二人の緊張は傍からも感じられる程で、どちらも気が満ちて来ている。どちらかの気が揺らいだ時動く筈だった。数十秒後、美舞の頬を伝っていた汗が顎から地面に落ちた。次の瞬間、加藤が吠えた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月16日 (金)

醒なる美舞【16】 5 空手部の門戸-3

「やあっ。」
 掛け声と共に美舞は加藤の左脇腹に右フックを打ち込んだ。鈍い音と共に加藤の脇腹はへこんだが、加藤は何食わぬ顔で立っている。

「その体の割りには効くパンチを持ってるな。だが、それじゃあ俺を倒す事は出来ないぞ。」
 加藤はそう言うと、右正拳を繰り出した。美舞はそれを躱し、左正拳を繰り出した。加藤はそれを右肘でブロックした。美舞はすぐさま左中段回し蹴りを繰り出し、加藤がそれを躱すと、蹴り足を降ろし、それを軸足にして右上段後ろ回し蹴りを繰り出した。それは加藤にヒットしたが、普通は顔面に当たる筈のものがこの二人だと脇辺りに当たる。加藤は一瞬顔を歪めたが、すぐ真剣な顔をし、構え直した。

「加藤さん、強いね。」
「ああ、まあな。これでも全国でも十指に入るぞ。」

「ふーん、じゃあ本気・・・出すよ。」
 美舞はそう言うと、いきなり加藤の懐に入り込み、右正拳を腹部に打ち込んだ。そしてすぐさま右下段蹴りを打ち込み、その蹴り足を軸に左上段跳び後ろ回し蹴りを打ち込んだ。その全てが加藤の腹部・左足・顔面にヒットした。その次の瞬間、加藤は右膝をついた。

「ぐ・・・う・・・。」
 加藤は唸りながらも立ち上がり、構え直すと呼吸を整えた。そして、徐に左正拳を繰り出し、続けざまに右正拳を繰り出した。美舞がそれをブロックすると、続けて右中段回し蹴りを繰り出し、美舞のブロックごとふっ飛ばした。美舞はうまく着地したが、加藤の攻撃が効いたのか暫くその場に留まっていた。幾らブロックしたとは言え、体重が三倍近くもある男の攻撃を三度も受けたのだからただ事じゃすまない。

「へへ・・・。」
 美舞は舒して笑い出した。微かに俯いた顔を上げた。
「ん?頭でも打ったのか?」

「ううん。嬉しくって。」
 こんな可愛い少女がと言った感じの満面の笑顔である。
「嬉しい?」
加藤は不思議に思って訊いた。

「うん、今迄両親以外の人と闘った事が無くって。いろんな人と闘えるのが嬉しいんだ。それも加藤さんの様な強い人と・・・。だから、此処は勝たなきゃね。」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月15日 (木)

醒なる美舞【15】 5 空手部の門戸-2

「いいえ、是非此処でやりたいんです。」

 男は少し考えた後、提案した。
「それならこうしよう。部員の一人と組み手をしてみてから考えよう。」

「良いですよ。誰ですか相手は。」
 美舞がそう言うと男は一人の男に手招きをした。その男は部員の中でも大きな方で見た目190cmは優にあった。

「いいんですか、松井さん。」
「ああ、真面目にやってやれ、加藤。身の程を知れば諦めるだろう。」
 松井と呼ばれた男は加藤に向かってそう言った。加藤の方は少し心配をしているがそれでも松井の言い分を認めたのか、美舞の前に立ち礼をした。
「君には恨みはないが、君の為だ。大怪我する前に一度自分の立場を知っておいた方が良い。」

「その言葉、忘れないでよ、加藤さん。」
 美舞はそう言うと、静かに礼をし構えた。その構えは、右半身を前に出し、少し腰を下げ、右手は口の辺りに、左手は胸の辺りに置いてあるものだ。両手には指無しの革手袋が謎めいてはめてあった。

 一方、加藤の方は足を肩幅に広げ、心持ち左半身が出ていた。更に両手は顎の前に軽く握って置いていた。

 美舞はスピードを生かした攻撃型の、加藤は守りの型である。しかし、加藤はその巨体で美舞を威圧し無言の攻めをしていた。少しずつではあるが美舞は退がって行った。

 対峙してから一分ほどして、突然、美舞は動いた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月14日 (水)

醒なる美舞【14】 第5章 空手部の門戸-1

第5章 空手部の門戸

 入学式当日、美舞は空手部の門を叩いた。

 徳川学園空手部は男子も女子もかなりのレベルで高校総体で全国制覇する事数度にも及ぶ。卒業生にはオリンピックに出たり、プロレスラーになったり、有名になる者も数多い。

 その空手部には200cm、100kgの大男等珍しくなかった。美舞は133cm、35kgだから、まるで小人のようである。その美舞が道場に入って行った時、空手部員の顔は見物だった。

「すいませーん。1年D組三浦美舞、入部希望します。」
 美舞の場違いな可愛い声は今迄騒がしかった道場を静寂の場に変えてしまった。なにしろ、身長がかなり低く、非力そうな女の子が道場の入り口で驚くべき言葉を発したのだから無理もない。

「あのー、どうかしました?」
 美舞はきょとんとして、近場にいた一人の男に聞いた。その男は美舞の言葉で正気を取り戻したのか、唐突に笑い出した。その男の笑い声を皮切りに道場中が笑い声に包まれた。それを美舞は不思議そうに見ながら暫くじっとしていたが、どうやら収まる気配がないので、先程の笑い始めの男に話しかけた。

「なにが・・・おかしいんですか?」
 男は笑い疲れたのか、暫く呼吸が整わなかったが、笑いが収まると美舞に話しかけた。
「君が・・・、うちに・・・、入部・・・、するのかい?」

「はい。」
 美舞は元気に話した。
「でも、此処は男子空手部だよ。」
苦笑いされた。

「ええ、知ってます。駄目なんですか?」
 男は美舞の真剣な眼差しと、真摯な物言いに思わず真面目な顔になった。
「いや、駄目って事はないさ。徳川学園は老若男女問わずがモットーだからね。それはうちにも言える事だから。」

「それなら・・・。」
 と言いかけると。
「だが、見ての通り此処は君とは体格が違い過ぎる男しかいない。君の身の為にも女子部に行った方が良いと思うんだが。」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月13日 (火)

醒なる美舞【13】 4 学園での一歩-2

 美舞もこの学園で何かやってみたくて入学した。取り敢えずは自分の護身術で空手部にでも潜り込もうと思っている。徳川学園空手部は高校空手界のみならず、実戦空手界でも屈指の強者揃いである。

 美舞は自分の実力を試してみたかった。今迄は両親が稽古相手で、両親以外と闘った事がなかった。だから、自分はどれくらい強いのか分からなかった。第一、両親は護身術として教えてくれたのであって、大会に出るために教えてくれた訳ではなかった。今迄も何度か両親に大会に出る事を許可して貰おうとしたが、未熟さを指摘され、許されなかった。

 しかし、この学園に合格した時、思い切って学園の空手部に入りたい事を話してみると、両親は条件付きで承諾した。その条件とは、護身術と一緒に教わった技は使わないという事だった。その技は、普通の人には出来ない事だから他人には見せてはいけないという事だった。昔一度、面白半分に使った事があったが、その被害は散々たるものだった。

 それ以来、その力の絶大さを認識しつつ習練して来た。いずれ使う時も来るだろうから、それ迄は技に磨きをかけるのが筋だと思っていた。

 兎に角、美舞はこの学園で新たな一歩を踏み出す事になった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月12日 (月)

醒なる美舞【12】 第4章 学園での一歩-1

第4章 学園での一歩

 三浦美舞は既に十六歳。高校一年生である。

 美舞の入学した徳川学園は変わった学校で、入学試験が学術試験ではない。では何かというと、面接においてその特技を披露し、それが認められれば合格という何とも風変わりなのである。

 美舞はこの時、両親から習った護身術を披露した。もう一つ、特技があるのだが、それは人に見せてはいけないときつく言い渡されている。兎に角、美舞はあっさりと入学を許され、新しい生活をスタートさせた。

 徳川学園は希望すれば寮もあり大きな学園都市に学校や図書館や美術館など色々な施設がある。言わば、ひとつの町みたいになっている。

 そこでは、普通の高校ではあり得ない高校生の弁護士とか警察官、教師や医者等、色々な職業に高校生が就いている。当然、法に触れない部分だけであるが、れっきとした仕事として相応の給料をもらっているが、これはそれぞれの分野で卓越した才能を持つ者に早い内から習練する機会を与え、優れた職業人をつくる事を目的としている。また、一般に認められていない職業、例えばスパイとか特殊工作員とか忍者みたいなものでも、その才能ありと認められた時は学園から多大な援助を受けられる。

 これ程風変わりな学校は世界広しと言えどもこの徳川学園しかない。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月11日 (日)

醒なる美舞【11】 第3章 愛の結晶

第3章 愛の結晶

 マリアとウルフは戦場を離れた後、日本に越して来た。そして、ウルフは日本国籍を得て“三浦司狼”という名前になり、真理亜と一緒に住み始めた。ウルフにとって日本は住み易い所だった。当然、マリアにとっては生まれ故郷だから問題はない。それに日本は他の国に比べても、危険が少なく治安も良く、出来るだけ争い事を避けたい二人には都合が良かった。その事もあって日本に移住する事にしたのだ。

 二人は半ば恋愛未満で生活を始めた。出会いからして普通じゃないし、出会ってから間もない。かといって、お互いに興味があって傭兵稼業から足を洗ったのだから、暫くの間一緒に住んでお互いの事を良く知らない事にはどうしようもない。だから、二人は同じ家に住み、世間に溶け込む為結婚をした。金銭面は傭兵時代の稼ぎで少なくとも三十年は暮らせるが、ウルフが小さい診療所を開いて多少の収入を得られるようにした。そうする事で、周りにも不信感を与えずに済む。こうして二人は平和な日本で、平和な人生を歩む事にした。

 それから数年後、二人に子供が生まれる事になる。名前を美舞という。

 美舞は両親に似て美人になるだろうと思われた。事実、十数年後には結構もてるようになる。

 それはさておき、美舞の左手に五芒星の、右手に逆五芒星の痣があり、それはまさしく二人の血を引く証明であった。この事が、美舞を苛酷な?運命に巻き込んで行くのである。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月10日 (土)

醒なる美舞【10】 2 熾烈な愛-4

「わかったわ。しばらく貴方の側にいてみようと思う。私も貴方の強さに興味があるし、それに貴方の・・・。」
「?」
「いえ、何でもないわ。貴方には見事に負けたもの・・・。私は今迄貴方ほどの男に会った事がないの。私は貴方に負けて一度死んだのよ。私は傭兵をやめるから貴方もやめてくれないかしら。それだけの価値があると思うけど。」
ウルフはマリアの言葉に驚き、暫く考え込んだ挙句、承諾の意を表した。

 それから一週間後、二人は戦場から消えた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 9日 (金)

醒なる美舞【9】 2 熾烈な愛-3

「君の美しさに惚れてしまった。君がもし元のところに帰りたいというのならそうしてもいい。でも、君が俺の気持ちに応えてくれるなら、此処にいてくれないか?」
ウルフは顔を真っ赤にして言った。いや、顔どころか耳も手も、肌が露出しているところ全て真っ赤にしながらである。今迄彼女の外見に惑わされ口説いて来た男はそれこそ山のようにいたが、敵に、しかも闘った男に告白された事などなかった。何故なら、マリアと一対一で闘った男は、女もだが、全て地獄の門をくぐっているからである。ウルフだけがマリアに勝った唯一の男であった。

 マリアは自分の運命の数奇さに笑わずにはいられなかった。

 その笑いはウルフには嘲笑にとれたのか、不機嫌そうな顔になった。

 マリアはウルフの顔をじっくり眺めてみた。闘っている時は顔などよく見ている余裕などなかった。第一、そんな事をする必要もなかった。闘いに負けたら死んでしまうのだから。結局、マリアはウルフに負けたが死ねず、敵に告白をされる事になったのだから人生どう転ぶか分かったものではない。

 ウルフは見事な銀髪を後ろに結び、白い戦闘服を着ていてマリアとは正反対に目立つ格好をしている。

 マリアにしろウルフにしろ、戦場で目立つ格好をしているのは自分の能力に自信があるからで、「俺を(私を)斃せると思うならかかって来い」という挑発をしているからに他ならない。よく見るとウルフは美形の部類に入るのではないかとマリアは思った。

 ウルフの眼は透き通るように薄い緑色であった。「綺麗だな・・・」と、マリアは思った。とても傭兵の、人殺しの眼ではない。じっくり見ている内に目の前の男に多少なりとも興味を持つ自分に気が付いた。マリアは暫く考え込んでいたがふっと顔をあげ、ウルフの緑の瞳を見つめた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 8日 (木)

醒なる美舞【8】 2 熾烈な愛-2

「ねえ・・・。どうして・・・。」

 マリアが口を開いた瞬間、ウルフの顔が緊張した様に見えたが、それは一瞬のものだった。ウルフはすぐ先程の穏やかな表情に戻り、ゆっくり口を開いた。
「君が不思議がるのはよく分かる。君は我々の敵だし、仇でもある。でも、俺はその事よりも君の・・・。」
「君の・・・?」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 7日 (水)

醒なる美舞【7】 第2章 熾烈な愛-1

第2章 熾烈な愛

 マリアは目を覚ました。見た事のない風景に見た事のない男。その隣に先程迄闘っていた“白銀のウルフ”が静かに見つめていた。

「つっ・・・。」
マリアは起き上がろうとしたが体に力が入らなかった。所々体が痛む。
「マリア・・・、無理をするな。君は今、動ける状態じゃない。覚えていないだろうが、君は力を暴走させたんだ。力の事は後々教えるとして、今は養生する事だね。」
ウルフは優しい顔をして子供を諭すように言った。とても敵に対する態度ではない。

 見知らぬ男はウルフに一言二言言葉をかけるとウルフは「すまんね」と苦笑を浮かべて右手を挙げた。男はそれに対して親指を立てて応じ、テントから出て行った。そしてテントにはマリアとウルフだけが残る事になった。

 マリアはウルフに対しても死ぬ事に対しても恐怖感はなかった。今迄いくつもの戦場を駆け抜けて来た、兵のみが持てる一種の錯覚のようなものであった。それでもその錯覚のお陰で何度も修羅場をくぐり抜けて来た。「多分、ウルフも私と同類だろうな」と、マリアは思った。これも一種の「感」と言うもので、特に理由を説明出来るものではない。

 兎に角マリアはウルフの前では、緊張と尊敬と敬愛の複雑な感情に支配された。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 6日 (火)

醒なる美舞【6】 1 二人の傭兵-5

 マリアの言葉と同時に二人は身構えた。マリアは右足を踏み出し、右手を顔の下に構え、左手を胸の辺りに置いた。ウルフはマリアの構えを鏡に映した様に左側を前に出している。二人とも素手だ。体の何処にも武器をつけていない。唯一、マリアは左手に、ウルフは右手に革手袋をつけている。

 ガッ

 二人は同時に地を蹴った。先ずマリアがウルフの腹部に拳をふるった。ウルフはそれを難無く右手で払い、払いつつも左手で脇腹を殴った。流石に擦っただけではあったが今迄何人にも触れさせた事がなかった体に触れられて、マリアはカッとなった。 

「・・・くっ。」
 マリアは今迄にない屈辱感を味わっていた。自分の攻撃は当たらないのに、相手の攻撃が当たってしまう。それは今迄の敵には決してあり得ない事だった。そしてマリアが焦れば焦るほどマリアの攻撃は当たらない。ウルフの方はというと、余裕綽々という表現がぴったり来るほど難無く闘っている。
「どうした、それが“漆黒のマリア”の闘い方かい?」

 ウルフは右手でマリアの左手を掴み、背負い投げのような感じで投げた。マリアは受け身もまともに取れず、背中を強かに打った。

「ぐぅ。」
 マリアは背中の痛みよりも自分の脆さが悲しかった。闘いの事よりも精神の脆さに。今迄数々の修羅場をくぐり抜けて来た筈の自分の存在意義は目の前の男によって無に帰されようとしている。
「負けるもんか・・・。ま・け・る・も・ん・か・・・。」

 マリアの目には子供が喧嘩に負けそうになってそれを覆そうとする、ある意味で純粋な欲望が宿っていた。

「負けるもんかー。」

 マリアがそう叫んだ瞬間、マリアの左手から光の塊が放たれた。ウルフはそれを見て一瞬驚いたが落ち着いて右手に気を集中すると光の玉を受け止めた。

 マリアはそれっきり呆然自失と言っていい状態でフッと倒れた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 5日 (月)

醒なる美舞【5】 1 二人の傭兵-4

「・・・。判っていたなら、どうして阻止しなかったのよ。貴方の雇い主がやられるのを黙って見ていたわけ?」
「たった一人の人間にやられるような奴らに雇われたつもりはない。俺は奴らの力量を試しただけだ。もし、俺が此処じゃなくあそこにいたら、君の仕事もああは行かなかっただろうね。」
 ウルフは挑発してみた。マリアはどうやら負けん気が強そうだし、ウルフとしてもマリアの手の内を見てみたかった。

「成功しなかったって事かしら。」
 苛立たされているマリア。
「いや。苦労しただろうって事だよ。」
厭味でもなく返すウルフ。

「そうかしら・・・ね。」
 マリアが先に焦って来た。こうなると闘いは厳しい。
「納得行かないなら、試してみるかい?」
ウルフはマリアが挑発に乗ったと思った。

「望むところよ。任務も完了したし、貴方の化けの皮を剥がすのも面白そうね。」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 4日 (日)

醒なる美舞【4】 1 二人の傭兵-3

 シュッ 

 再び何かが空を切る音が聞こえた。ウルフは態勢を崩しながらも、その音の正体を見た。黒髪で黒い戦闘服を着た美しい女性。武器をもっている様子も無く左手には黒い革手袋がはめてあった。

「美しい・・・。」
 ウルフは思わず呟いた。そうせずにはいられなかった。戦場に舞う漆黒の天使。ウルフは生まれてから今迄これ程美しい女性を見た事がなかった。すぐウルフの脳裏に一つの名前が浮かんで来た。

「漆黒のマリア・・・か・・・。」
 この言葉は質問ではなく確認であった。ゲリラにいる優れた傭兵。女性とは聞いていたがこれ程美しいとは思いもよらなかった。

「白銀のウルフよね・・・こんばんは・・・って言ったらいいのかしら。」
 マリアは微笑んだ。その微笑みは天使のようでいて、悪魔のようでいて、見るものを魅きつける。

 ウルフはその微笑みに見とれつつもゆっくり話しかけた。「君の噂は聞き及んでいる。噂以上の仕事ぶりだね。」
「お褒めにあずかり光栄ね。貴方の噂は私も聞いているわ。でも、噂ってあてにならないわね。」

「どうして?」
「此処に侵入する時、貴方の側を通ったのよ。でも気付かなかったみたいね。やっぱり引退して感覚が鈍ったのかしら。」
 左の革手袋を直した。

「気付いていたよ。とは言っても、君だとは判らなかったけれどね。」
 ウルフの淡々とした口調にマリアは驚いた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 3日 (土)

醒なる美舞【3】 1 二人の傭兵-2

 この二人が戦場で出会ったのは、七月八日の午前十二時ジャスト、ウルフが所属している軍の基地だった。ウルフは何となく近くの森の中を歩いていた。不思議と眠気が無くこういう時に限って何かが起こるのを、今迄何度も経験していた。夜中にしては月明かりが明るく、くっきりと影が出来る位であった。こうした時は夜襲に向かないが、それを逆手に取る事も可能であった。

 現在の戦況は自軍に有利であったが、たった一度の戦闘が戦況を完全に覆してしまった例は数多くあり、ゲリラ側に“漆黒のマリア”がいる以上、夜襲を警戒するに越した事はない筈だった。この時マリアは単独で行動しているが、この手の夜襲はどちらかというと人数より速さと正確さを重視しなければならず、人数の多さが正確さを欠く事に繋がる事を考えると、この行動は間違っていない。ウルフは暫く散歩して帰ろうとした矢先、基地の方向が炎上しているのが見えた。ウルフはすぐに夜襲を受けた事を悟って帰ろうとしたが、自分の背後に人の気配を感じた。

 シュッ

 何かが空を切る音が聞こえる。ウルフは咄嗟に躱したが、躱せたかどうか分からなかった。しかし、体の何処にも痛みを感じず、何かが動く気配を感じたので、ウルフはすぐさま戦闘体制をとった。大きな樹を背にし、腰を落として敵の出方を待った。敵の方も隙を見い出せない為か動かない。こうなると持久戦になりかねない。ウルフとしては早急にけりをつけなくてはならず、その焦りが隙をつくった。その瞬間、敵がいきなり仕掛けて来た。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 2日 (金)

醒なる美舞【2】 第1章 二人の傭兵-1

第1章 二人の傭兵

 戦場に兵(つわもの)は幾らでもいる。正規の軍人に限らず、傭兵にも数多くの兵は存在する。その中でも一際光る二人の傭兵の話をしよう。

 一人は“漆黒のマリア”と呼ばれる凄腕の女傭兵である。長い黒髪、吸い込まれそうな黒い瞳、均整のとれた体に黒い戦闘服。これが、木下真理亜が“漆黒のマリア”と呼ばれる所以である。これ迄実に四桁にも及ぼうかという数の敵兵を斃して来た。マリアの優れた所は夜戦にあり、黒い戦闘服で暗闇に紛れ、素早い動きで敵に接近し斃す所にある。マリアの武器は誰にも知られていない。それはマリアと闘う事になった兵士が必ず斃されるからで、マリアの斃した兵士の体には明らかに何かで切られた様な跡がある以外には何の痕跡も残っていない。この事でマリアは戦場で常に有利に闘えるのである。

 一方、“白銀のウルフ”と呼ばれるウォルフガング=アルベルト=ミュラーは、長く見事な銀髪、透き通るような緑の目、穏やかな物腰。異名からは程遠い、とても兵士には見えない男である。戦場では何でもこなすオールマイティな働きをしたが、ある日を境に闘う事を止め、軍医になった。元々、医師免許を持っていた為、軍医としても目覚ましい活躍をしていた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年1月 1日 (木)

醒なる美舞【1】 序

「醒なる美舞」序

神秘の力を持つ傭兵二人。彼らには秘密の痣がある。左手の五芒星は漆黒のマリア。右手の逆五芒星が白銀のウルフ。その両親から生まれた美舞は両の手に神なる力を携える。美舞を巻き込む過酷な運命とは!?何に覚醒する…?恋愛!SF!学園!格闘!長編です。

さくさく読めます。

美少女アルバムシリーズ第3弾。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

目次 【醒なる美舞】 PCケータイ小説

-目次-

小説「醒なる美舞」

☆各章の1から次の小説を読むには、「次の記事」を選択して下さい。ココログケータイ小説とのリンクの都合で、目次の公開日付は1月1日になりました。此の侭「次の記事」を選択すると、「醒なる美舞」の頁が次々とご覧になれます。ご協力お願い致します。(携帯の場合)。

【1】 序

【2】〜【6】 第1章 二人の傭兵-1〜5

【7】〜【10】 第2章 熾烈な愛-1〜4

【11】 第3章 愛の結晶

【12】〜【13】 第4章 学園での一歩-1〜2

【14】〜【20】 第5章 空手部の門戸-1〜7

【21】〜【23】 第6章 学園のアイドル-1〜3

【24】 第7章 熱い大会

【25】〜【27】 第8章 突然の玲-1〜3

【28】〜【32】 第9章 秘密の絆-1〜5

【33】〜【34】 第10章 神・聖・魔・人-1〜2

【35】〜【36】 第11章 狙われた神-1〜2

【37】〜【38】 第12章 彼氏風景-1〜2

【39】〜【41】 第13章 優勝談義-1〜3

【42】〜【50】 第14章 修羅-1〜9

【51】〜【53】 第15章 黄昏まで-1〜3

【54】〜【57】 第16章 光鋩-1〜4

【58】〜【60】 第17章 約束-1〜3

【61】〜【65】 第18章 衝撃の初デート-1〜5

【66】〜【67】 第19章 ジーンアブダクション・神のカルマ-1〜2

【68】〜【70】 第20章 殺害の真相-1〜3

【71】〜【75】 第21章 仇討-1〜5

【76】〜【77】 第22章 神の啓示-1〜2

【78】~【81】 第23章 結婚式の奇跡-1〜4

【82】 後記

■ しいなゆうひのPCケータイ小説BBS☆

| | コメント (0) | トラックバック (0)

ママ…産後ダイエット・2008年12月分

産後ダイエットの変化を記録して置きたいと思います。2008年12月分です。

■2008年12月は、39kg台も見られる様になりました。一年前と比較してみたのですが、2008年の11月の場合、41.0kgと39.7kgが最高と最低ですね。マイナス1.3kgです。それに比べて、妊娠中の2007年の場合は、12月の31日間の体重は、44.1kgと42.2kgが最高と最低ですね。プラス1.9kgです。随分痩せました。下腹部は弛んでいますが、停滞期のジャックナイフが効いていた様です。前の一番細いジーンズが余裕で入る様になりました。シャツを入れても大丈夫です。エドウィンのジーンズ、ウエスト58cmも余裕です。びっくりな位痩せたものです。嬉しくて、目標達成のご褒美とクリスマスプレゼントにと、エドウィンのヴィーナスジーンを買って来ました。次の目標は、体重で言えば、現状維持ですね。其の侭、腹筋を付けたいと思います。無理をして、保育園の送迎をしたのが良かったのか悪かったのかですね。柿の種チビチビ1日小袋食べは時々しています。飲酒等はしませんよ。

年月日 体重(kg)

2008/12/1   41
2008/12/2   40.7
2008/12/3   40.4
2008/12/4   40.1
2008/12/5   40.4
2008/12/6   40.3
2008/12/7   40
2008/12/8   40
2008/12/9   40.2
2008/12/10  40
2008/12/11  40.5
2008/12/12  40
2008/12/13  40
2008/12/14  40.2
2008/12/15  40.2
2008/12/16  40.6
2008/12/17  39.9
2008/12/18  40
2008/12/19  39.7
2008/12/20  39.9
2008/12/21  40.3
2008/12/22  40.4
2008/12/23  40.3
2008/12/24  40.3
2008/12/25  39.8
2008/12/26  39.8
2008/12/27  40
2008/12/28  39.7
2008/12/29  40
2008/12/30  39.9
2008/12/31  39.7

○体重の情報は、毎月1日に更新しています。2007年8月分から2008年9月分迄、過去の文章を訂正しております。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2008年12月 | トップページ | 2009年2月 »