醒なる美舞【6】 1 二人の傭兵-5
マリアの言葉と同時に二人は身構えた。マリアは右足を踏み出し、右手を顔の下に構え、左手を胸の辺りに置いた。ウルフはマリアの構えを鏡に映した様に左側を前に出している。二人とも素手だ。体の何処にも武器をつけていない。唯一、マリアは左手に、ウルフは右手に革手袋をつけている。
ガッ
二人は同時に地を蹴った。先ずマリアがウルフの腹部に拳をふるった。ウルフはそれを難無く右手で払い、払いつつも左手で脇腹を殴った。流石に擦っただけではあったが今迄何人にも触れさせた事がなかった体に触れられて、マリアはカッとなった。
「・・・くっ。」
マリアは今迄にない屈辱感を味わっていた。自分の攻撃は当たらないのに、相手の攻撃が当たってしまう。それは今迄の敵には決してあり得ない事だった。そしてマリアが焦れば焦るほどマリアの攻撃は当たらない。ウルフの方はというと、余裕綽々という表現がぴったり来るほど難無く闘っている。
「どうした、それが“漆黒のマリア”の闘い方かい?」
ウルフは右手でマリアの左手を掴み、背負い投げのような感じで投げた。マリアは受け身もまともに取れず、背中を強かに打った。
「ぐぅ。」
マリアは背中の痛みよりも自分の脆さが悲しかった。闘いの事よりも精神の脆さに。今迄数々の修羅場をくぐり抜けて来た筈の自分の存在意義は目の前の男によって無に帰されようとしている。
「負けるもんか・・・。ま・け・る・も・ん・か・・・。」
マリアの目には子供が喧嘩に負けそうになってそれを覆そうとする、ある意味で純粋な欲望が宿っていた。
「負けるもんかー。」
マリアがそう叫んだ瞬間、マリアの左手から光の塊が放たれた。ウルフはそれを見て一瞬驚いたが落ち着いて右手に気を集中すると光の玉を受け止めた。
マリアはそれっきり呆然自失と言っていい状態でフッと倒れた。
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